Best Practice
Neuro Diveの成功ストーリー
(就職者の声)
適応障害・
うつ病の方のストーリー
先端ITに特化した就労移行支援事業所「Neuro Dive」では、AIやデータサイエンスの分野で活躍する人材を育成し、長期就労をサポートしています。卒業生の約8割が、データ分析やシステム開発など高い専門性を活かす仕事に就労しています。
今回は、データ分析の仕事に就いた卒業生に、Neuro Diveの学習プログラムや成果物制作、就職などについて語っていただきました。前職での経験とNeuro Diveで学んだAI・機械学習スキルを融合することによって、社会貢献に向けた新たな道筋が見えてきたそうです。
先人の知恵×最先端ITテクノロジーで社会問題の解決に貢献したい
M.Kさん(40代)
- Neuro Dive 秋葉原利用期間:1年
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就職先
ITソリューション企業 -
業務内容
機械学習、データ活用支援
建設材料の研究・教育に尽力した前職時代
大学院時代は、私立大学理工学部土木工学科の博士過程で、コンクリートの長期耐久性を研究していました。修了後、大学教員として5年ほど教育・研究活動に携わり、その後別の大学に移りましたが、ある日職場に向かうため駅のホームに立った時、めまいと吐き気を感じたのです。内科では原因がわからず、精神科を受診したところうつ病と適応障害が明らかになりました。
振り返ってみれば、ムラ意識の残る職場でストレスを感じ、疲労感や倦怠感を抱えていたように思います。診断後、医師からの勧めもあってすぐに休職制度を利用し、1年弱の休養期間を設けました。休職期間満了時には体調も大分落ち着いていましたが、元の職場に戻るのは難しいとの判断から退職に至ります。障害に対する周囲の無理解に苦しんだ時期もありました。見た目ではわかりにくい病気なので、「怠けているだけではないか」と感じる人もいたのです。それでも社会復帰を目指さなければと、就労移行支援の活用を検討しました。
成長著しい先端IT分野で新たなキャリアを
複数の就労移行支援事業所を見学しましたが、どこも自分の経歴にマッチするとは思えずにいた時、障害者支援に携わっている家族から勧められたのが、先端IT人材の育成に特化した就労移行支援事業所「Neuro Dive」です。早速、Neuro Diveについて調べたところ、「非常に尖っていておもしろそうだ」という印象を受けました。先端IT分野は未知の領域でしたが、IT人材の確保に向けた国の取り組みも見聞きしていましたし、先端ITは今後ますます社会ニーズの高まる分野だと考えたのです。
Neuro Diveのプログラムは机上の空論に終始せず、ビジネスシーンや生活へのリアルな活用を想定している点が魅力でした。これまで培った理系の知識に、先端ITという新たなスキルを身に付けられれば、自分の可能性も広がると思ったのです。また、スキル習得だけでなく体調の安定を重視している点も決め手になりました。私は不特定多数の人がいる場所にストレスを感じ、公共交通機関の利用にも抵抗感を持っているのですが、そのような特性にも配慮していただけたのが大きかったです。通所の負担を軽減するため、月1回の面談以外はリモートで受講できるよう便宜を図ってもらいました。内容・スタイル共に自分の経歴や特性にマッチしていることから、迷わず入所を決意したのです。
講座を通じ自身のビジネススキルを再構築
Neuro Diveの通所期間は、2022年4月からの1年間です。通所開始後は、先端IT領域のほか、さまざまな講座を受講しました。対人スキルやビジネス基礎スキルなどの就職準備性講座、健康管理をはじめとするセルフマネジメント講座など。ストレッチやウォーキングなどの健康管理法は、今も続けています。
前職でビジネススキルは習得していましたが、講座を通じて体系的に整理できたことが後の就職活動に結びつきました。たとえば、人と対話する時に何気なく行っていた相槌や合いの手も「傾聴力」という一種のビジネススキルであると知ってからは、それを自分の強みとして認知し就職活動における屋台骨の一つになったのです。
「何を学ぶか」より「何をしたいか」を重視
Neuro Diveで基礎講座を学んだ後、4つの専門領域の中から「AI・機械学習」へ進みました。コンクリート工学を専門としていた経験上、今後、建造物の維持管理や保全においてAI技術が不可欠になるだろうと考えたからです。AI・機械学習に必須のPythonは、学生時代に学んだC言語とはまったく異なるプログラミング言語だったためトライアル&エラーの繰り返しでしたが、非常に新鮮でした。元々、数学科志望だったこともあり、微分や行列などの学習も興味深く進められました。多岐にわたるAI・機械学習領域の中でも、特に興味を惹かれたのが画像認識です。この技術の活用が社会問題の解決につながるのではないかと感じました。
高い専門性を習得できましたが、知識・スキルに溺れてはならないと考えています。私にとって、「どのような知識を習得するか」より、「知識を使って何をするか」が重要でした。成果物発表に向けたテーマを設定する際も、自分の持っている知識を基にゴールを設定するのではなく、まず解決すべき課題を設定しました。そのため、手駒ではまかなえず知識を引っ張ってくる必要に迫られましたが、そのたびに新たな発見があり、非常に楽しい工程だったと記憶しています。
就労移行支援員との何気ない会話が心の支えに
元々、研究職だったこともあり、課題の設定や情報収集を自ら行う習慣は身に付いています。支援員も「自走力が高い」と評価してくださって、進捗状況を見守ってくださいました。ゴールの設定が高すぎて、ボツになったテーマも少なくありません。「あーもう、全然だめだ」と壁にぶつかることもありましたが、そのような時は支援員に支えられました。支援員は、進捗状況だけでなく日々のできごとについて尋ねてくださるのですが、何気ない日常会話こそ心落ち着くひと時でした。ボツにしたテーマは、いつかスキルが向上した時に再度トライしようと温めています。
画像認識AIを活用し、インフラメンテナンスに向けた成果物を制作
Neuro Diveでは、就職活動においてポートフォリオにもなる成果物制作の機会があるのですが、最終的に選んだテーマはコンクリートに生じるひび割れの可視化です。コンクリートは建物や道路などのインフラに欠かせないものであり、世界的に見ても使用量第2位の建設材料です。しかし、コンクリートは圧縮には強いが引張力には弱いという性質があり、引っ張られた方向と直交する方向にひび割れが生じます。ひび割れは、コンクリートの耐久性を評価する重要な指標となるため、正確な検知が必要です。
従来、コンクリートのひび割れ検査は、熟練の土木技術者が目視で確認するため、膨大な時間と手間がかかっていました。しかし、AIのディープラーニングによって画像データから自動的にひび割れを検知するモデルが作成できれば、建設業界の課題解決に貢献できます。想定しているのは、カメラを搭載したドローンで調査・点検し、AIモデルで分析するシステムです。
このテーマは、自身の経歴とNeuro Diveで習得したスキルを活かせるものでしたが、すべてがスムーズに運んだ訳ではありません。第一に画像データの収集に苦心し、自分の足を使って撮影することもありました。おかげで、自宅周辺の建物に潜む欠陥箇所はおおよそ把握しています。第二の課題は、画像の鮮明度でした。最初のモデルでもひび割れ箇所の識別には成功したものの、画像にノイズが入ることが許せなかったのです。ノイズ解消の方法を模索したところ、セグメンテーションという手法にたどり着きました。それを使って、ひび割れ箇所を的確かつ鮮明に分類できた時の達成感は、今も忘れられません。
理想的な職場への就職が叶い、企業の一員としてDXを推進
通所を開始して半年が経った頃から就職活動をスタートし、企業実習に応募しました。症状が安定した今でも公共交通機関の利用は難しいのですが、その企業はフルリモート・フルフレックスという理想的な勤務形態でした。また、前職はワンオペが基本でしたので、1人ワンプロジェクトの方針もマッチしていました。約1カ月間の企業実習と面接を経て内定をいただきましたが、これ以上、理想的な職場にはもう出会えないだろうと思っていたので、入社できて本当によかったと日々思っています。
今は、データコンサルティングと予測モデル開発という2つの業務を担当しています。詳細は控えますが、組織横断的なデータ活用に向けたデータ分析業務、そしてサイロ化による技術継承の問題を解決するための予測モデルを開発する業務です。最終目標に至る道のりはまだまだ遠いですが、データが形になるたびに顧客から直接喜びの声をいただけるので、非常にやりがいを感じています。
「AI・機械学習グループ」として採用されたので、今後、AI・機械学習のスキルを活用する場面は、社内研修等を含めて増えていくことでしょう。Neuro Diveで習得したスキルを土台に、クラウドコンピューティングなど新たな知識を増やしながら、仕事の幅を広げていくつもりです。
Neuro Diveで得られたこと、今後の目標
私が生涯持ち続けるであろうテーマは、「知識と経験の継承」です。建設業界からプロフェッショナルがどんどんいなくなっている今、彼らの知識と経験を何とかして残したい。ひび割れ検知についても、プロフェッショナルの鑑定眼をAIに学習させて、後世に受け継ぐモデルを作成できないかと考えています。技術が受け継がれるのには、理由があります。過去に目を向けながら、未来を見据えることが大切なのではないでしょうか。
Neuro Dive利用を検討している方へ
これからNeuro Diveを利用する方には、コミュニケーションスキルの重要性を伝えたいと思います。どのような職種でも、ある程度の対人スキルが必要になるので、Neuro Diveのトレーニングを通じて経験を積んでおくことが肝要です。たとえ克服できなかったとしても、苦手なことを先方に伝えられれば、理解し必要としてくれる会社があるかもしれません。
学習への取り組み方は人それぞれだと思いますが、とにかく興味のある分野に飛び込んでみるのも一つの方法ではないでしょうか。やってみたら思っていたのと違う、ということは往々にしてありますが、その時は放り投げて他に興味のある分野を見つければよいだけです。社会に出れば回り道しづらい場面もありますが、就労移行支援事業所にいる間の特権だと思って手当たり次第にトライしてみてはいかがでしょうか。広げた枝葉が一つの幹に収束していけば、それが自分に合っている分野のはずです。興味が湧かない時はITアドバイザーや支援員とコミュニケーションを図ってみると、雑談レベルの話から自分でも気づいていなかった興味対象を発見できるかもしれません。