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先端ITに特化した就労移行支援事業所「Neuro Dive」では、AIやデータサイエンスの分野で活躍する人材を育成し、長期就労をサポートしています。学習プログラムを締めくくる成果物発表会は、専門性やスキルのみならず、プレゼンテーション能力を磨く貴重な機会となっています。
今回は、うつ病のある利用者の方に、自身が行った成果物について語っていただきました。自己理解を深めながら成果物発表にいたるまでの歩みや制作の過程を振り返るとともに、今後の展望についてもお話しいただきます。研究成果を実践で試し、AI業界へ新たな一歩を踏み出すまでのストーリーです。

就職者

災害リスクの少ない未来に向けて、AIテクノロジーの可能性を模索

I.Hさん

  • Neuro Dive 利用期間:約1年3ヵ月
  • 就職先
    AI系ベンチャー企業

Neuro Diveでの学習

  • ニューラルネットワークモデルの構築などAI・機械学習領域を学ぶ 
  • トライアルアンドエラーを重ねて分析精度を向上

ビジネス視点を重視したAI研究

システムエンジニアの父の下で育った私は、幼いころからパソコンとふれ合い、中学時代には初級システムアドミニストレータ(ITパスポート)を取得しました。高校卒業後は、情報工学を学べる都内の大学へ進学。3年生の時にうつ病と診断された際、主治医の先生に就労移行支援という制度自体を勧められたことをきっかけに、Neuro Diveへの通所を開始しました。

Neuro Diveでは、職業準備性講座を通じて自己理解を促進するとともに、Neuro Dive独自カリキュラムの講座を通じて自身のITスキルを高めていきました。成果物の制作に取り掛かったのは、通所を始めてから半年が過ぎたころです。テーマは「地震による津波の高さ予測」にしました。大学で災害に関する研究をしていたことで、自分の中で津波予測に対する関心が高まっていたためです。

このテーマ設定には不安点がありました。Neuro Diveでは社会で活躍する人材を育成するために、ビジネス視点を重視しています。自身でもビジネス視点の導入に高い優先度を置いていたので、「津波の高さ予測」で価値を創出できるビジネス領域はかなり限られるのではないだろうか、という懸念がありました。

しかし、ITアドバイザーから「宅地などの災害リスク調査法として建設業界に提案できる。自信を持っていい」と助言をいただきました。また、国内で大災害が頻発した時期だったので、「津波による被害を少しでも減らせれば、大きな価値を生み出せる」と、研究に踏み切ったのです。

トライアルアンドエラーを重ねて分析精度を向上

成果物の制作では大学の研究室で学んできた災害の調査法を機械学習に発展させ、「6時間先まで1分間隔の津波の高さを予測するモデル」を作成しました。モデル作成の際には、気象予測に特化したニューラルネットワークモデルの一つ「MetNet」を参考にしています。

学習データにしようするため実際の津波データを収集しようとしましたが、災害による計器の故障によって記録されていなかったため、シミュレーションデータの活用に方向転換しています。海外の論文も参考に大量のデータを学習させ、トライアルアンドエラーを繰り返しながら、予測モデルの精度を高めることに注力しました。

また、当初は各地点における津波高の最大値を予測する想定でしたが、時系列予測の方が有効性を高められるのではないかと考え、Convolutional LSTMとAxial Attentionを活用することにしました。

その他に津波予測が地形の影響を大きく受ける点を考慮して、テーブルデータを2次元格子状データに変換する前処理を行っています。周辺の画像などで地形情報を検出し、時系列要素を加味したモデルです。

さまざまな分野で活用できるモデルを構築

ただ、2次元情報に時間軸情報を加えると、データ容量が予想をはるかに上回ってしまい、処理に数日を要しました。条件を変更するとまた一から取り掛からねばならず、まさに気が遠くなるような作業です。そこで、Google Colab Proと契約することによって処理速度を上げ、モデル構築を達成。Neuro Diveには同じ理系畑として苦労を分かち合える仲間がいたので、情報交換や何気ない会話が励みになりました。

今回の研究結果はさまざまな分野で利用価値があるのではないかと考えています。直接的な活用方法として、ハザードマップの作成や防災速報などの災害対策です。また、今回の時系列空間を扱ったモデルを応用することで、人の流れの予測や渋滞予測も可能になるのではないかと期待が膨らんでいます。

成果物発表に向けて苦手意識を克服

企業発表に先駆け、Neuro Diveで発表の場を設けていただきました。Neuro Diveでは、「正しくなければ評価されない」ことはないので、機械学習モデルが動くまでの過程を評価してもらえればそれでいい、という気持ちでした。

私の特性でもありますが、人前に出ることや即興の会話に苦手意識があったので、事前に台本を作り、時間を計測しながらプレゼンテーションのリハーサルを行いました。おかげで発表当日は過度な緊張感を抱くこともなく、病気にうまく対処すればさまざまなことを乗り越えられると実感できたのがよかったです。

企業発表だけでなく面接も控えていたので、1、2カ月の間、毎週面接練習の場を設けていただきました。想定問答集の充実とともに、心の準備も整っていったと記憶しています。

発表会当日はさまざまな部署の方が臨席していたので、技術面よりストーリー性を意識しながらプレゼンテーションしました。面接では、苦手なことをありのまま伝えた上で、自分のやりたいことをアピールできたのではないかと思います。その結果、研究の着眼点を評価くださったAI系ベンチャー企業から、内定をいただきました。

機械学習エンジニアとして未知の分野を開拓

現在、機械学習エンジニアとして、データ分析や予測モデルの作成などに携わっています。過去の分析だけでなく未来の予測を実現するため、日々トライアルアンドエラーの繰り返しです。Neuro Diveで学んだスキルを土台として、さらに新しい技術を学習しチャレンジしていく必要はありますが、正解のない未知の世界を手探りで進むことにやりがいと面白さを感じています。クライアントと直接顔を合わせながら仕事をしたいという希望も叶いました。分析結果にクライアントが満足してくださったときの喜びは格別です。

「自分には技術もビジネス的思考も足りない」と気持ちが落ち込む時は、職業準備性講座で学んだ「リフレーミング」の反復によって2、3日中の回復を目指します。「新人なのだからそういうこともある」と今の自分を受け入れながら、ポジティブ思考に転換。日々、自分の状態を確認しながら、心にやさしい生き方をしたいと思っています。

先端IT分野の仕事に重要なことは、不明な部分を残さず、一つひとつクリアな状態にしておくこと。不明点が生じた原因を探し、解決策を調べる力はNeuro Diveでも養いました。今は情報社会なので、解決策は見つかるはず。「探す」「調べる」という工程をいかに楽しめるかが大切なのではないでしょうか。

一歩踏み出す勇気を

Neuro Diveでは、課題に対して支援員が一緒に向き合ってくれました。自分の考えにあらためて気づかされることも多々ありました。しかし、就労移行支援の利用に向けて一歩を踏み出すことの難しさは、身をもって知っています。今、Neuro Diveの利用を決めかねている方も、勇気を持って一歩を踏み出せるよう願っています。