先端ITに特化した就労移行支援事業所「Neuro Dive」では、AIやデータサイエンスの分野で活躍する人材を育成し、長期就労をサポートしています。就労支援の一環として実施している企業実習は、ニューロダイバーシティの意義を発信し、多様な人材を雇用するきっかけづくりのための取り組みです。
今回は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)のある方の企業実習事例を紹介します。自己理解を深めながら、企業実習を通じて専門スキルとビジネス視点を培ったプロセスについて伺いました。企業実習で感じた思いや、今後の展望についてもお話しいただきます。
データ分析スキルとビジネス視点を融合し、企業の課題解決にアプローチしたい

N.Tさん(20代)
- Neuro Dive 秋葉原利用期間:11ヶ月
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実習先企業
株式会社ダイナム - 実習期間:2022年11月中旬~12月中旬(2週間)
Neuro Diveでハードとソフトの両面をスキルアップ
Neuro Diveの利用を開始したのは2022年4月末です。就職活動で障害特性に起因する困難に直面し、大学の学生相談支援室に相談したところ、就労移行支援事業所の一つとしてNeuro Diveを紹介されました。見学時に、機械学習やデータ分析といった高度なIT技術プログラムに触れ、「絶対に使える知識を習得できる」と思い通所を決めました。
Neuro Diveでは基礎的な講座の後、実際にハンズオンで学びを深めていきます。制作した成果物は4つ。1つ目はWebスクレイピング、2つ目はデータ分析コンペを活用した機械学習でしたが、ここまではあくまで習熟度を形にした学習成果物です。3つ目は、Pythonを用いたExcel作業効率化に取り組みました。
4つ目は、スクレイピングと機械学習によってホテルレビューの感情分析を行いました。1300件のデータの中から星4のレビューをフィルタリングし、頻出単語を抽出。「部屋」「狭い」「バス」「時間」など上位ワードの組み合わせを分析することでクリティカルな課題を可視化し、ホテルを星5にランクアップするための施策を検討しました。
3つ目と4つ目の成果物については、ITアドバイザーからビジネス的な視点で助言をいただきました。たとえば、提案先は経営戦略部なのかあるいはカスタマーサービスなのか、競合分析をどのように入れ込むのかといった指摘です。大学で習得した技術や知識にビジネスフレームワークを融合できた点で、確かな手ごたえを感じました。
ソフトスキルにおいて最も学びが大きかったのは自己理解です。最初は自分の弱みを伝えることに抵抗感を持っていましたが、自己理解やディスカッションの講座を通じて、自身の状況を簡潔に伝えられるようになりました。また、スケジュール管理能力の向上も課題の一つでしたが、仕事術を学んだおかげでルーティンを習慣化できています。毎朝、一日のタスクの細分化と、チャットワークの報告、スケジュール確認は欠かしません。自身の調子を把握しながらタスクを効率よくこなすために、タイマーで作業時間を区切るポモドーロ・テクニックも取り入れています。
企業実習で見えてきた自分の強み

ダイナムの企業実習に参加させていただいたのは、Neuro Diveに入所して8ヶ月目のことです。データ分析に精通した方の下で、実践的なプログラムに取り組めるところに魅力を感じたのを覚えています。分析にとどまらず、改善策の提案まで行うことを目標に、実習に臨みました。
実習課題は、アルバイト人員が不足している店舗の時給設定が妥当か否かを、Excelのデータ分析で検証するというものです。ダイナムから提示された調査項目やオープンデータを基に、店舗の所在地域と全国のデータを比較しながら、労働市場を分析しました。その結果、時給設定の変更では問題解決にならず、ビジネス視点での提案としては弱いと判断し、人材確保策の提案に方針を変更。店舗の周辺エリアから労働力を呼び込む施策を打ち出しました。追加調査でスケジュールが狂ってしまったのは自分の計画性の弱さだと感じましたが、根拠のあるデータを見いだし提案まで到達できた点で、自分の能力を発揮できたと思います。
データ分析のプロセスは大学やNeuro Diveで学んでいましたが、ダイナムでは一歩進んでデータ分析の目標設定を教えていただきました。企業におけるデータ分析は経営戦略や利益追求のために用いるので、それを踏まえた上でどのようなプレゼンが必要か、上層部にどのような粒度で伝えるかをレクチャーしていただき、新たな視点を得られたと感じています。おかげで、自分のデータ分析スキルをビジネススキルに錬成することができました。実際の業務を想定したデータ分析を行ってみると、自分は課題をとらえ、解決策を発見・要約する能力に長けているのではないかと感じられたのも成果の一つです。今回の実習を通じて、自分の強みと弱みを自覚できました。
シビアな企業人目線で業務効率化を追求したい
ダイナムでは障害者の特性理解に注力されていたので、実習中も毎日ヒアリングを欠かさず、私の心身状態を確認してくださいました。「スケジュール管理能力を高めたい」という思いに寄り添い、プランを作成してくださったことも印象深かったです。簡易的なWBS(作業構造分解図)を提示いただき、それに沿ってスケジューリングを行ったことが非常に役立ちました。
実習課題とは別にビジネス講座を設けていただき、BS・PL分析を学ぶ貴重な機会となりました。会社の経営や財務に目を向ける内向きの視点と、顧客や市場を見据えた外向きの視点を身に付けねばならないと実感したのを覚えています。これからは、自身の労働時間や賃金を会社の支出と捉えた上で、業務の効率化に取り組みたいです。また、上司のマネジメントスタイルを7つに分類し、各スタイルに応じたコミュニケーション手法を導き出す講義も大変印象に残っています。これから社会人生活をスタートする上で、有用なツールになりそうです。
担当者の方々が多忙な中、私の質問に嫌な顔一つせず丁寧に対応してくださったことが安心感につながりました。不明点を逐一確認させていただき、報連相の大切さを実感しました。

自分らしいはたらき方が叶う企業へ就職
ダイナムの企業実習を終了した後、人材派遣会社の企業実習に参加しました。実習課題は、会社が実際に抱えている問題の対処法を検討する内容でしたが、ダイナムで学んだ目標設定を活かせたと思います。改善策を提案するだけでなくシミュレーションまで踏み込み、実際の運用に向けてJavaScriptを習得し始めました。ダイナムで学んだWBSメソッドもフル活用。プロジェクト完了日から逆算して作業工程を分割し、途中で見直しながら進行したため、完璧なスケジューリングを達成できました。
無事内定をいただき、社会人として新たなスタートを切りました。ダイナムでオフィスの雰囲気を体感できた点も、今回の内定につながったと思います。ダイナムの実習を通じて、自分には黙々と作業を進められる落ち着いた環境が適していると感じたのですが、内定した企業でもそれに似た環境ではたらくことができそうです。

自己理解の先に活躍の場が広がっている
入社先は、業務効率化に向けた本格的な取り組みに着手し、今まさに改善の機運がある会社です。私にも裁量を委ねていただけることを期待し、先端IT技術を導入しながら提案能力と推進能力を発揮したいと考えています。企業実習でのスケジューリングは短期的なものでしたが、それを長期的なものに発展し、苦手分野を克服しながらはたらいていきたいです。
Neuro Diveではハードスキルだけでなく、苦手分野を克服するためのソフトスキルを習得できたからこそ、今の自分があると思っています。これからNeuro Diveを利用する方にも、自己理解を大切にしていただければと思います。自分の特性を周囲に理解してもらえなければ、せっかく磨いた専門スキルを発揮できない場面があるかもしれません。苦手分野を完全に克服できなくても、「自己理解」や「伝える能力」があれば高い専門性を活かせるのではないかと考えます。そうすれば、活躍のフィールドがさらに広がっていくのではないでしょうか。