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2024.02.05

コラム

 

発達障害者(ASD、ADHD)のコミュニケーションの特徴|障害特性がプラスに働くことも

発達障害は子ども特有のものではなく、成長した後も症状が持続したり、大人になってから気づくケースも少なくありません。「同僚との会話が続かない」「話がかみ合わない」といった職場での人間関係を経験し、コミュニケーションを苦手に感じてしまう方もいるのではないでしょうか。しかし、ビジネスシーンにおいては必ずしも不利なことばかりではなく、その特性を上手く活かせる場面もあります。 また、コミュニケーションスキルを改善するためには、まずは自身の特性について理解することも重要です。この記事では、発達障害者のコミュニケーションの特徴や対人関係に活かせるトレーニング方法などを解説します。

発達障害者はコミュニケーションが苦手?一般的な課題とは

発達障害は、行動や認知の特性によって「ASD(自閉症スペクトラム障害)」「ADHD(注意欠如・多動症)」「LD(学習障害)」の3つに分類されます。同じ診断名でも特性のあらわれ方には個人差がありますが、一般的に発達障害のある方はコミュニケーションが苦手とされています。

中でも、ASDの特性のある方は「相手の気持ちや空気を読み取りづらい」などの特性により、コミュニケーションに問題を抱える方が多い傾向にあります。一方で、「論理的に成立していないことが気になってしまう」という特性によって論理的な返答ができる一面もあるため、ビジネスにおいてはそれが強みになることもあるでしょう。 コミュニケーションへの苦手意識を克服するには、自身の特性を理解し、コミュニケーションが苦手な理由を考えることが重要です。その上で、コミュニケーションスキルを磨いていきましょう。

ソーシャルコミュニケーション ビジネスコミュニケーション
目的 個人的な情報共有 ●業務に関する情報交換
●信頼関係の構築
●円滑な業務進行
●業務における目標達成
コンテキスト、場面 日常生活 職場、仕事環境
相手との関係性 友人、家族 上司、部下、同僚、顧客
伝え方、トーン 親身に 専門的に、論理的に
トピック 多岐にわたる 業務関連、目標に特化した内容など

ソーシャルコミュニケーションとは、友人や家族などの親しい間柄におけるコミュニケーションのこと。日常的なやり取りや会話など、一般的なコミュニケーションを指します。感情や個人的な要素が含まれ、トピックも多岐にわたるのが特徴です。

一方、ビジネスコミュニケーションとは、職場や仕事環境でのコミュニケーションのこと。従業員間での業務に関する情報交換をはじめ、顧客対応、接客などが該当します。コミュニケーションの目的や内容が明確で、構造的な形を取るのが特徴です。また、感情や非言語的コミュニケーションの要素が少ない点で、ソーシャルコミュニケーションとは異なります。

発達障害の特徴と「ソーシャルコミュニケーション」への影響

個々の性格や経験、発達障害の種類によって特性は異なりますが、どのような特性がソーシャルコミュニケーションに影響するのでしょうか。当記事では、ASDとADHDの場合について、それぞれのコミュニケーションの特徴と、特性が影響して起きてしまうトラブル例について解説します。

ASDの方の場合

発達障害の中で、コミュニケーションそのものに持続的な障害があるのがASDです。ソーシャルコミュニケーションにおいては、表情を読むことや身ぶり手ぶりなどの「非言語的コミュニケーション」が苦手であることなどが影響し、日常生活での対人関係でトラブルにつながってしまうこともあるでしょう。

ソーシャルコミュニケーションに影響する特性例

  • 人の気持ちを想像・理解したり、感情を共有したりするのが苦手
  • 冗談や比喩が理解できない
  • こだわりが強く、興味のあることを深く知ろうとする

このような特性が強く出てしまうことで、下記のような問題が生じる可能性があります。

特性が影響して起きてしまうトラブル例

  • ストレートすぎる言葉で相手を傷つけてしまう
  • 社交辞令や冗談を文字通りに受け取ってしまう
  • 限定的な話題を一方的に話し続けてしまう

なお、ASDの方の場合は「相手の立場に立って考える」「相手の気持ちを読み取る」などを苦手とします。相手に対して「無反応」「無表情」「視線が合わない」などの態度を取ってしまい、冷たい対応と受け取られてしまうこともあるでしょう。

ADHDの方の場合

ADHDは、「不注意」と「多動性・衝動性」を主な特徴とする発達障害です。ミスや忘れ物が多いといった行動面での困難は見られますが、比較的コミュニケーションでの問題が生じる可能性は低いと考えられています。しかし、下記のように多動性・衝動性の特性がソーシャルコミュニケーションに影響する場合があることを、理解しておくのが望ましいでしょう。

ソーシャルコミュニケーションに影響する特性例

  • 人の話を一定時間集中して聞けない
  • 相手の話を待てない
  • しゃべりすぎる 
  • 思いついたことをすぐに話す

このような特性が強く出てしまうことで、下記のような問題が生じる可能性があります。

特性が影響して起きてしまうトラブル例

  • 相手の話をさえぎってしまう
  • 待つことが苦手で落ち着きがなくなってしまう
  • 思いのまま話すため話題が飛びやすい

発達障害の特徴と「ビジネスコミュニケーション」への影響

発達障害のある方が特に悩みを抱えやすいとされるのが、職場でのコミュニケーションです。ビジネスコミュニケーションは、立場の異なる相手に対して意思疎通を図り、信頼を得ながら業務を進めていくためのスキルです。そのため、自分の考えを相手に伝えるための伝達力だけでなく、「相手が知りたいことを伝えられるか」「いかに相手の立場を想像できるか」を意識する必要があります。より専門的・論理的なコミュニケーションが求められるため、特性のあらわれ方によっては困難と感じてしまうケースも多いのです。

ASDとADHDの傾向がある場合、どのような特性がビジネスコミュニケーションに影響するのかを見ていきましょう。

ASDの方の場合

職場では上司や部下、取引先など、さまざまな人と関わる機会があります。その都度、対応する相手によって適切に言葉遣いを選ばなければなりません。ASDの方の場合、日常生活でよく使われる「もう少し」「多めに」「適当に」など幅のある曖昧な表現の解釈が苦手な傾向があります。そのため、自己解釈の相違によってミスにつながってしまうこともあるでしょう。

一方で、ビジネスで重視されるロジカルシンキングを得意とする傾向も見られます。論理的に話せる・伝える能力を磨くことは、はたらく上での強みになるでしょう。また、特定のものや手順に強いこだわりがある場合、規則に忠実で規範意識が高いと捉えることができます。経理や財務、情報管理部門など、ルールに沿って進められる定型業務などでは、その強みを活かせる可能性があるでしょう。さらに、関心のある分野に高い集中力を発揮する傾向にある方は、プログラマーや研究職にも向いているといわれています。

ADHDの方の場合

ADHDの方の場合、「不注意」と「多動性・衝動性」の特徴によって、ビジネスコミュニケーションにおける影響も異なります。「不注意」の特徴により「集中力が続かない」「気が散りやすく、注意散漫になる」、「多動性・衝動性」の特徴により「一つの物事にじっくり取り組むのが苦手」「思いついたままに話してしまう」などの困りごとが挙げられます。

一方で、「多動性・衝動性」の特徴は、場面によっては「創造的なアイデアが湧きやすい」「好奇心が強く、行動力がある」と捉えることもできます。アイデアや行動力は、デザイナーやプログラマー、起業家などの仕事で活かせるスキルの一つです。 特性のあらわれ方には個人差があり、特性による影響も一概にはいえませんが、トレーニングによってコミュニケーションスキルの改善は図れます。コミュニケーションへの苦手意識が膨らんでしまう前に、自分に合ったトレーニングを始めましょう。

コミュニケーションスキル改善のためのトレーニング方法

コミュニケーションへの不安や悩みを解消するために工夫できることはあります。ここからは、コミュニケーションスキル改善のためのトレーニング方法をご紹介します。

表現力向上のためのトレーニング

業務を円滑に行うために必要な「報連相」やスケジュール管理において、上司や同僚とのコミュニケーションが欠かせません。表現力を向上するためのトレーニングとして、「適切な言葉やわかりやすい表現を選ぶ」「相手の立場に立って必要な情報を伝える」などを実践し、誤解がなく的確に伝えることを意識しましょう。文章の作成やスピーチの練習なども効果的です。

傾聴力向上のためのトレーニング

「しっかり話を聞くように注意される」「ついつい話の腰を折ってしまう」などの困りごとを抱えている場合、傾聴力を高めるトレーニングが有効です。傾聴とは、相手の話に注意深く耳を傾け、理解しようとするスキルのことです。下記の4つを実践して、傾聴力を高めましょう。

傾聴力を高めるポイント

  • 話を聴く時は相手に体を向けて、頷きや相槌をいれる
  • 話の場面にあった表情をする
  • 相手の話を繰り返す
  • 論理的に合っていない話でもとりあえず最後まで話を聴く

相手が「自分の話を聴いてくれている」と感じるような姿勢を見せることで、円滑なコミュニケーションにつながります。

チームワーク思考力向上のためのトレーニング

チームワークでのコミュニケーションスキルは、役割分担やグループワーク、グループディスカッションなどへの参加で養うことができます。グループワークでは、自身の意見も伝えつつ他者の意見も聞き、お互いに協力しながら進めることで同じ目標に向かって一緒に動いていることを意識できるでしょう。

相手の状況を踏まえたコミュニケーション方法として、

  • 作業の途中で確認依頼をする
  • いきなり本題に入るのではなく、今話してもよいか尋ねる
  • 曖昧な表現で理解が難しい場合は、具体的な数値や期日を伝えてもらう

などを実践しましょう。他者とのスムーズなコミュニケーションを行えるようになるには、協力し合う環境に身を置くことも大切です。

アサーション(主張力)強化のためのトレーニング

アサーションとは、相手と対等な立場に立って自己主張をするためのコミュニケーションスキルです。 相手の主張を否定するのではなく、お互いの価値観を尊重しつつ、自分の意見を的確な言葉にするための方法を意味します。アサーションは自己理解をした上で、ロールプレイなどのトレーニングで強化していきます。

ロールプレイとは、役になりきってある特定の場面を演じることで、課題解決の手がかりを得る方法です。対処方法を理解するだけではなく、実際に言葉に出したり、相手を見ながら身ぶり手ぶりを交えて伝えたり、実践を通じてスキルを習得できるのが特徴です。ロールプレイを繰り返すことで、日常生活でもアサーションを行えるようになるでしょう。

発達障害の特性はデータサイエンスなどの先端IT領域と親和性がある

発達障害の特性とされる論理的思考や知的好奇心、集中力などは、データサイエンスにおけるデータの分析や機械学習モデルの作成といった先端IT領域の業務にマッチすると考えられています。論理的に物事を考えたり、一つのことを突き詰めたりするのが得意な人は、先端IT領域ではたらくことも視野に入れてみてはいかがでしょうか。

発達障害の特性として睡眠障害を合併することがありますが、先端IT領域を担う企業ではフレックス勤務など「自由なはたらき方」を導入している傾向にあります。夜型で時間通りに活動するのが難しい方でも、時間や場所に縛られない柔軟なはたらき方ができる可能性が高いです。また、対面でのコミュニケーションが苦手な方も、チャットツールを活用することでカバーすることもできるでしょう。このような理由からも、発達障害の特性と先端IT領域との親和性は高いと考えられています。

ただし、特性の内容や程度、興味関心には個人差があるため、必ずしも先端IT領域との親和性が高い方ばかりではありません。まずは、IT分野の業務が自分に合っているか、見極めることが大切です。

就労移行支援事業所「Neuro Dive」はコミュニケーションスキル向上を支援

就労移行支援事業所の「Neuro Dive」では、ビジネススキル講座の一環として「表現力」「傾聴力」「チームワーク思考力」「アサーション」といったコミュニケーションスキルの向上も支援しています。Neuro Diveを利用された方がどのようにコミュニケーションスキルを磨いていったのか、一例をご紹介します。

【事例紹介】ASD(自閉症スペクトラム障害)の方の場合

大学時代にASDであることが判明したRさんは、Neuro Diveの利用中に参加した企業実習を通じて、組織におけるコミュニケーションの難しさを実感。実習生同士で成果物のフィードバックを行う際に、アサーティブなコミュニケーションが上手くできなかったと言います。

ビジネスにおけるアサーティブなコミュニケーションの必要性を実感したRさんは、社会ではたらく心構えとしてコミュニケーションスキルの向上に邁進。Neuro Diveのビジネススキル講座では、毎週リモートで利用者同士のディスカッションなどに取り組み、円滑なコミュニケーションを取れるようになりました。

参考:『自閉症スペクトラム障害(ASD)の方の成功ストーリー(利用者の声)

発達障害の特性を理解してコミュニケーションスキルを身につけよう

発達障害と一口に言っても、コミュニケーションの困りごとには個人差があります。まずは自分がどのような場面で困ることがあり、どのような対策が必要なのかを考えることが重要です。コミュニケーションスキルを身につけるには、グループワークやロールプレイなどが効果的です。就労移行支援事業所などの支援も活用しながら、ビジネスに必要なコミュニケーションスキルの向上を目指しましょう。