発達障害は、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)の大きく3つに分類されます。中でも自閉スペクトラム症のある人やその傾向がある人は、IT分野のエンジニアに向いているといわれています。実際には、どのような特性がIT分野の業務にマッチするのでしょうか。この記事では、発達障害のある人がエンジニアに向いている理由や先端ITを担うエンジニアリングの分野、エンジニアとしてはたらくために身につけたいスキル・知識について、事例とともに紹介します。
目次
発達障害のある人にITエンジニア適性がある理由
世界的に有名なIT関連企業が集まる米国シリコンバレーの企業では、発達障害または発達障害の傾向がある人材が多く活躍しています。その理由は、発達障害に見られる論理的思考や知的好奇心、集中力などがITエンジニアの適性とマッチすると考えられているためです。
ITエンジニアの適性とマッチする発達障害の特性例
- 論理的思考:感情的な表現よりも論理的かつ規則性に沿ったルールの中で物事を考えるのが得意
- 知的好奇心:特定分野に関する知識が豊富
- 集中力:一つのことをコツコツと集中して実施できる など
上記の特性例のように、知的好奇心からくる興味の偏りと強いこだわりが高い集中力を生み、論理的かつ規則的なルールにこだわる論理的思考がプログラミングの要素と類似性があると考えられています。また、こういった特性が、ITエンジニアの適性とも近しいといわれているのです。しかし、上記の特性例はあくまで一例で、特性の内容や程度には個人差があります。
また、特性の出方によってはIT分野に向いていないケースもあります。興味・関心事項は個人によって偏りがあるため、そもそもプログラミングに興味が持てない場合、集中して仕事に取り組むのは難しいでしょう。
特性の内容や程度、興味関心には個人差があることを踏まえると、発達障害のある人が必ずしもITエンジニアの適性があるとは言い切れません。まずは、IT分野の業務が自分に合っているか、見極めることが大切です。
そもそも先端ITとは?
先端ITとは、AIや機械学習、IoT、ビッグデータなどの技術を指します。経済産業省では、このような技術のサービス化や活用を担う人材を「先端IT人材」とし、ITシステムの受託開発や保守・運用サービスに従事している「従来型IT人材」とは分けて定義しています。
先端IT技術の領域に対応できる人材になるには、専門的かつ高度なITスキルの習得が欠かせません。先端IT分野の業務では、「目的を設定して膨大なデータから必要なデータを抽出し、分析・可視化していく」というアプローチが必要です。こうしたプロセスでは発達障害に特有な「物事を突き詰める能力」や「法則や差異を見出す能力」などが大いに活躍すると考えられています。
実際にも、IT人材の不足による需要の高まりも背景となり、「ニューロ・ダイバーシティ(脳の多様性)」という考え方のもと、先端(高度)IT専門職としての障害者採用や育成も進められています。
先端ITを担うエンジニアリングの分野
では、先端ITに分類されるエンジニアリングにはどのような職種や仕事があるのでしょうか。エンジニアと一口にいってもさまざまありますが、ここでは先端ITを担うエンジニアの仕事内容について紹介します。
機械学習エンジニア、AIエンジニア
AI(人工知能)のさまざまな分野での活用に関して研究開発を担うのが、機械学習エンジニアやAIエンジニアです。
機械学習エンジニアとは、AIがデータを学習し、自ら収集したデータを解析するプログラム構築を担う人材のこと。AI技術の中でも機械学習に特化しているのが特徴で、ビッグデータと呼ばれる大量のデータをAIに与えて学習させることで、AIを教育するのが主な仕事です。機械学習エンジニアは、アルゴリズムを使ったシステム開発やプログラムの実装を行うため、高度なプログラミング技術が求められます。
一方、AIエンジニアとは、AIを使ったシステム開発やデータ解析を手がける技術者のこと。機械学習やディープラーニングを活用しながらデータの学習や分析を行い、最適なAIを構築するのが主な仕事です。AIエンジニアにはAIの専門知識やプログラミング技術といった先端ITスキルはもちろん、数学的知見や論理的な思考が必要です。
データサイエンティスト、データアナリスト
データサイエンティストとは、アルゴリズムや統計といった情報科学理論を活用してデータを分析し、課題解決のための有意義な知見を見出す仕事で、AIエンジニアとも関連性の強い職種の一つです。データ解析を通してサービスや品質向上に役立つ情報を提供し、成果向上や課題解決の提案を行うため、コンサルタント要素が強くなります。
一方、データアナリストとは、ビッグデータの分析といったアナリティクス分野を担う人材のこと。データサイエンティストよりも、データ分析に特化しているのが特徴です。商品・サービスといったプロジェクトの目的に対して、AI技術を用い、分析したデータから相関関係やパターンを導いて仮説を立てます。大量のデータを扱うため、数学的な知識や分析能力が求められます。
デジタルマーケティング
デジタルマーケティングとは、インターネットやAI技術などの「デジタル」を活用したマーケティング手法のこと。下記にある通り、デジタルマーケティングの収集対象となるデータは多岐にわたります。
デジタル情報例
- WEBサイトで得られるユーザー行動
- スマートフォンやタブレットのブラウザや公式アプリの行動履歴
- 商品に搭載されたIoT経由の包括的なデータ など
リアル情報例
- 購買履歴などの活動データ
- イベントでの反響や店頭への来店データ など
インターネットの普及により、個人の購買履歴や行動履歴が詳細に分析できるようになりました。これにより、「ユーザーデータの蓄積」「ユーザーとの接触機会の創出」「各ユーザーのニーズに合った情報提供」といった目的で、デジタルマーケティングの活用の幅も広がっています。
収集したデータの分析と顧客ニーズの把握により精度が高まるデジタルマーケティングでは、マーケティング知識や創造性、コミュニケーション力の他、AIやIoTを活用するために機械学習などの知識が求められます。
その他
上記の他、先端ITを担うエンジニアリングには、次のような分野もあげられます。自分が興味を持てる分野があるのかを確認する際の参考にしてみましょう。
- 情報やデータをわかりやすく視覚的に表現するビジュアライゼーション(データ可視化)
- IoT製品開発に携わるIoTエンジニア
- クラウド環境上のサーバー設計・構築、ネットワークの整備など、インフラ設計を担うクラウドエンジニア
- データ活用を前提にデータの収集や整理、管理するための基盤をつくるデータエンジニア
- 情報の機密性、完全性、可用性を確保するサイバーセキュリティ など
エンジニアとしてはたらくために身につけたいスキル・知識
ここからは実際にエンジニアとしてはたらくために身につけたいスキル・知識を見ていきましょう。
AI開発言語のプログラミングスキル
AI開発やデータ分析で必要とされるのが、プログラミングの知識です。AI開発やデータ解析で使用するため、最低限習得しておきたいスキルともいえるでしょう。中でも、AI開発の中心言語である「Python(パイソン)」は、機械学習に使われるライブラリが豊富に用意されています。他にも、統計解析向けの「R言語」、WEBシステムとの親和性が高い「JavaScript」、最高水準速度がでる「C++言語」などを身につけておくのもよいでしょう。
数学、統計学的な知識
AIのプログラムは数学の理論がベースになっています。そのため、統計学や確率論、微分積分、線形代数などの知識があると有利です。AI学習では、集めたビッグデータから結果を導き出す際、最適な解析方法だと判断するために、数学の知識やフレームワークを用います。また、機械学習におけるビッグデータの分析やアルゴリズムといった基本情報を理解するために、数学的思考力も必要です。
データベースの運用スキル
AI開発では、データベースの運用知識や技術も重視されます。機械学習やディープラーニング(深層学習)でビッグデータをより効率的に活用するために、データベースの定義や操作、制御を行う際に用いられるデータベース言語について身につけておくとよいでしょう。中でも「SQL」はISOで標準規格化されており、他のデータベースでも応用しやすいため、多くのシーンで採用されています。
データ分析の知識
AIによるデータ処理に携わるうえで欠かせないのが、機械学習やディープラーニングといったデータ分析の知識です。機械学習の基本には、「大量のデータの中から正解と一致するものを探す方法」「数値などをもとに答えを導きだす方法」などがあげられます。また、ディープラーニングはアルゴリズムをもとにデータを評価する強化学習にも近い特性がある、重要な要素です。機械学習とディープラーニングの両方を習得することで、より多彩なAI開発に対応できるようになるでしょう。
開発に役立つフレームワークやライブラリの知識
エンジニアには開発に役立つフレームワークやライブラリの知識も必要です。AI開発では、既存のライブラリやフレームワークを活用することで、開発工程や期間を短縮でき、エンジニアの負荷軽減につながります。いかに効率よく求める結果を導き出せるかは、フレームワークやライブラリの知識が大きく影響してくるといえるでしょう。
多くのAIフレームワークはオープンソースで公開されており、無料で利用できます。著名なフレームワークとしては、「TensorFlow(テンソルフロー)」などが知られています。
発達障害のある人がスキル・知識を身につけるには?
発達障害の特性とされる不注意・多動性・衝動性などにより、一般的な勉強方法が合わない人もいるでしょう。その場合は、まず自分に合った勉強方法を見つけることが大切ですが、アドバイザーや専門の支援員、メンターといった存在も重要になります。
例えば、就労移行支援事業所では、一人ひとりに合った個別の「支援計画」と「学習計画」をもとに、専門スキルやはたらく上で必要な基礎的能力である職業準備性スキル等の習得を目指すことが可能です。また、同じ分野を学び、就職という同じ目標を持った仲間の存在があると、一緒に学んでいけるという心強さや仲間意識が生まれ、挫折しにくいというメリットもあるでしょう。
一人ひとりの発達障害の特性に合わせた適切なサポートを受けられる環境があれば、興味関心をさらに伸ばし、自信が持てるきっかけにもなり得ます。
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発達障害のある人は、どのようにして就職を叶えているのでしょうか。パーソルグループが運営するAIや機械学習、データサイエンスに特化した就労移行支援事業所「Neuro Dive」で学び、先端IT人材として企業で活躍されている方の事例を2つ紹介します。
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企業実習に参加した際は、Power BIを使用し、企業の人事管理システムに入っている膨大な情報を可視化する業務を体験。実践の場で知識やスキルを活かせたことで、少しずつ自分のはたらくイメージを醸成できたそうです。就職先が自分に合っていると感じられたことも、はたらく意欲につながりました。
研究開発系データサイエンティストの仕事に就いたG.Yさんの事例
G.Yさんは、事務系職の公務員としてはたらいていた時に慣れない環境下で体調を崩し、休職期間を経て退職しました。体調を崩した時にたまたま手にしたIT系の本がきっかけとなり、独学でプログラミングや機械学習、数学を学びますが、データサイエンス専門の訓練内容に引かれてNeuro Diveの利用を決意。「これまで勉強してきたことを実践の場で試してみたい」との思いから、研究開発系分野の企業実習に参加します。
実習課題はKaggleのデータを使い、事業部からの検証依頼を想定した機械学習モデルの開発と、AI技術に関する論文調査や事業化検討に取り組みました。最終日には担当役員へのプレゼンテーションを行うなど、企業実習を通じてはたらくイメージを掴み、大手IT企業の研究開発系データサイエンティストとして就職を叶えました。
発達障害の特性を強みにできるエンジニアの仕事を見つけよう!
発達障害に特有な「物事を突き詰める能力」や「法則や差異を見出す能力」は、先端IT領域で活躍するための大きな力になります。しかし、先端IT分野に興味・関心を持っても、日々進化する技術を自己流で磨き続けるには限界があるでしょう。発達障害の特性が強みとなるエンジニアの仕事を見つけるためには、専門分野に精通するITアドバイザーや支援員と学びを深められる、就労移行支援事業所の利用を検討してみるのもおすすめです。
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