発達障害のある人は、特性によってはたらきづらさや生きづらさを感じることがあるかもしれません。離職する発達障害人材も多く、就労への道のりが険しく感じることもあるでしょう。その道のりを整備する手段のひとつがスキルアップです。しかし、「どのようなスキルを身につけるべきかわからない」「スキルアップの必要性をあまり感じない」という人もいるのではないでしょうか。そこで今回の記事では、発達障害の特性を強みに変えるスキルや、スキルアップが人生にもたらす恩恵に焦点を当てていきます。

目次
発達障害のある人がスキルアップする目的
法定雇用率の上昇などによって、発達障害がある人の雇用は増加傾向です。しかし、はたらきづらさや仕事のミスマッチを感じて離職する人も多く、発達障害人材の職場定着が課題となっています。就職やその先にある職場定着を目指すには、スキルアップが大きな支えとなるでしょう。この章では、発達障害のある人がスキルアップを目指すべき理由について考えます。
適職に出会う可能性が高まる
発達障害人材は特性によってはたらきづらさを感じることがある一方、特性にマッチした仕事で成果を挙げている人材も少なくありません。個人差はありますが、発達障害人材は以下のような特性を仕事に活かせる可能性があります。
ASDの方の場合
- 論理的な思考が得意
- 興味関心事に対する高い集中力
- 細部へのこだわりを活かした正確性
- 視覚優位
ADHDの方の場合
- 優れた行動力・判断力
- 豊かな発想力
- 興味関心事に対する高い集中力
- 社交性
「自分の適職がわからない」という人は、自己理解によって自分の特性を知り、それを活かすためのスキルを整理することが大切です。たとえば、論理的な思考が得意な人は、プログラミングや数学研究などの専門スキルを磨くことで、才能を開花できるかもしれません。
しかし才能を開花させるには、専門スキルの土台となるビジネススキルが不可欠です。報告連絡相談やタスク管理などのスキルを身につけることで、専門スキルも活かしやすくなります。専門スキルとビジネススキルを両輪で伸ばしていくことにより、適職とめぐり合う可能性が高まるでしょう。
はたらきづらさを軽減できる
発達障害人材は、職場で以下のような困りごとを感じるケースがあります。
発達障害の特性による職場の困りごと
特性 | 職場で起こる困りごとの例 |
---|---|
感覚過敏 | 職場の音や照明、匂いがストレス要因となって集中が妨げられる |
不注意 | 指示の聞き流しやタスク漏れなどのミスを起こしやすい |
想像力の問題 | 曖昧な指示を理解することが苦手 |
コミュニケーションの問題 | 職場の人間関係構築や情報伝達に困難が生じる |
疲れやすさ | 体調を崩しやすく、欠勤が多くなる |
こだわり行動 | 自分が決めた業務の進め方にこだわって、軋轢を生んでしまう |
変更に対する対応力の問題 | 不意のスケジュール変更や業務依頼があると混乱してしまう |
計画力の問題 | 段取りやスケジュール管理が苦手で、仕事の期限を守ることが難しい |
就業経験のある発達障害人材の半数以上が離職している背景には、上記のような困りごとの存在が考えられます。特に、発達障害人材は人間関係の困りごとが離職理由となるケースが多く、対人スキルははたらきづらさの軽減に役立つでしょう。その他の困りごとも、セルフマネジメントやタイムマネジメントのスキル習得によって、改善できる可能性があります。
(参考:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター「発達障害者の職業生活への満足度と職場の実態に関する調査研究(2015年3月)」)
発達障害人材の価値を高めるスキル4選と、スキルアップ成功のポイント
ここからは、発達障害人材が社会で活躍するために必要なスキルと、身につけるためのポイントを紹介します。必要なスキルは大きく分けて、「日常生活のためのライフスキル」「社会生活のためのソフトスキル」「仕事をするためのハードスキル」の3種類です。
また、下図にあるように「日常生活のためのライフスキル」「社会生活のためのソフトスキル」は、障害の有無にかかわらず、はたらく上で必要とされる基礎的な能力「職業準備性」に該当します。

それぞれのスキルについて詳しく紹介します。
【ソフトスキル】対人スキル
人は会話をする時、相手から聞いた情報を脳のワーキングメモリに一時保存し、内容の理解と表現を同時並行します。

しかし、ADHDの人はワーキングメモリの低下によって、「人の話を聞いていない」「不用意な発言をする」と捉えられてしまいがちです。対人スキルを身につけることによって、その特性を補える可能性があります。
ビジネスシーンでは、以下のような対人スキルが求められます。
- ヒアリングスキル(傾聴力)
- 質問スキル
- 伝達スキル
顧客や上司の要望を的確に把握するには、ヒアリングスキルや質問スキルが必要です。また、相手の立場に立って聞く力「傾聴力」を身につければ、話の真意を汲み取れるようになります。発達障害は「要点の整理が苦手」という特性を伴うことがありますが、伝達スキルを磨くことで、相手が受け取りやすい話し方を身につけられるでしょう。
対人スキルの習得は、「特性を周囲に理解してもらう」「上司の指示を的確に理解する」「チームワークを向上する」などさまざまなメリットがあります。習得には、地道なトレーニングが有効です。ソーシャルスキルトレーニング(SST)などを通じてコミュニケーション術を学び、日常生活の中で意識的に活用すると良いでしょう。
また、ピアサポート(立場が同じ仲間同士のサポート)は、対人スキル習得の後押しになります。グループディスカッションやロールプレイでスキルを高め合うとともに、日常生活の中で不用意な発言を指摘し合える仲間の存在は、大きな支えになるでしょう。自分の不足点を意識しながらトレーニングを反復することが、対人スキルの向上につながります。
【ソフトスキル】ビジネス基礎スキル
求められるビジネススキルは業種や役職によって異なりますが、業種を問わず入社時に身につけておくべきスキルもあります。たとえば、ビジネスマナーや報告連絡相談、段取り力などです。ASDの人はマイルールにこだわりがあり、暗黙の了解や不文律をつかみづらいため、ビジネスマナー習得に困難を感じる場合があります。また、「臨機応変な対応が苦手」「タスク管理が苦手」という特性をもつ人は、段取り力不足を感じることがあるかもしれません。
発達障害人材のスキル習得方法として、一般的な講座やビジネス書は適さない場合があります。個々の特性に合ったトレーニングを取り入れるには、発達障害の専門家などに相談すると良いでしょう。助言を受けながら、自分に不足しているスキルや獲得したいスキルを整理し、自分に合うトレーニング方法を取捨選択することが、ビジネススキル向上の近道です。
ライフスキル
ソフトスキルの土台となるのが「セルフマネジメント」「健康管理」「自己理解」といったライフスキルです。スキルの具体例として、生活リズムの調整やストレスマネジメント、金銭管理、身だしなみなどが挙げられます。せっかく自分に合う仕事に就いても、ライフスキルの欠如によって心身のバランスや生活環境が乱れ、離職するケースも少なくありません。ライフスキルを身につけるとともに、必要なサポートを周囲に求めることが大切です。
ハードスキル(専門スキル)
汎用的なソフトスキルの上位に位置するハードスキル(専門スキル)を身につけることで、ビジネスパーソンとしての市場価値を高められます。自分の得意分野を見極めるには、適職診断ツールなどを活用するのもひとつの方法です。
発達障害の特性はロジカルシンキングや数学的思考と表裏一体の可能性があり、IT分野と親和性が高いといわれています。しかし、興味関心事に高い集中力を発揮しやすいという特性を活かすには、IT分野に限らず自分の好きなことにチャレンジする姿勢が大切です。情熱を注げる仕事にめぐり会うのは、幸運なことかもしません。しかし、スキルを磨くことで自ら幸運を引き寄せられるといわれています。そのスキルを次の章で紹介しましょう。
スキルアップに役立つ理論&ツール
この章では、スキルアップを目指す人のために考えられた理論とツールを紹介します。スキルを磨く一助となるかもしれません。
プランドハップンスタンス理論による5つのスキル
プランドハップンスタンス理論とは、スタンフォード大学教授のクランボルツが提唱したキャリア論です。クランボルツは、偶然に対してポジティブなスタンスでいることがキャリアアップにつながると考え、次のようなスキル獲得を推奨しました。
- Curiosity(好奇心):新たな学びを積極的に求める心
- Persistence(持続性):失敗してもあきらめない姿勢
- Flexibility(柔軟性):環境に応じて自分を変化させる対応力
- Optimism(楽観性):やればできると考えるマインド
- Risk-Taking(冒険心):リスクを恐れず踏み出す勇気
これらのスキルによって偶発的なできごとを自ら生み出し、キャリア形成に活かせるという考え方です。先行き不透明な時代ですが、失敗を恐れず興味関心のあることを突き詰めていけば、思いも寄らない形で実を結ぶことがあります。
発達障害のある人を対象としたスキルアップツール「BWAP2」とは
スキルアップは、個々の強みや就労上の課題を把握するところから始まります。その第一歩に役立つツールのひとつが、発達障害のある人の総合的就労スキルを評価する「BWAP2」です。
評価項目は、「仕事の習慣/態度」「対人関係」「認知能力」「仕事の遂行能力」の4領域、計63項目で、ハードスキルだけでなくソフトスキルを把握できます。大学や企業、就労移行支援事業所などで活用されている信頼性の高いツールなので、機会があれば実施してみると良いでしょう。
スキルアップがもたらすプラス効果
スキルアップは、さまざまな面で人生を豊かにする効果があります。具体的に紹介しましょう。
自己肯定感の向上
発達障害は、発達の凸凹が大きいとされる障害です。発達障害のある人は、凹(弱み)を指摘される機会が比較的多く、自己肯定感が育ちにくいといわれていますが、特定の分野で優れた凸(強み)をもつ人も少なくありません。
スキルアップによって凹を補い凸を伸ばすことで、自己肯定感を高められるでしょう。凹にばかり目を向けず、個性と捉えることも大切です。スキルアップによって自ら培った自己肯定感は、前に進む原動力になります。
就労機会の増加
2023年度障害者雇用実態調査によると、企業が発達障害人材の雇用に際して感じる課題として、「会社内に適当な仕事があるか」(76.9%)、「採用時に適性、能力を十分把握できるか」(42.9%)が上位に挙がっています。発達障害人材がスキルを身につけ、自ら企業側にアピールすることで就労機会につながるでしょう。
(出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」)
自立の促進
スキルアップは自立を促し、自己実現やQOL(生活の質)向上につながるでしょう。自立には、次のような要素があります。

生活的自立:家事や健康管理など、衣食住に関わる身の回りのことを自分で行えること
経済的自立:収入を得て、それを自己管理しながら生活できること
精神的自立:さまざまな問題に対して自分で意思決定し、責任をもって行動できること
社会的自立:社会の一員として責任ある行動をとり、人との関わりの中で合意形成すること
性的自立:自分の性だけでなく他者の性を尊重した行動をとれること
ライフスキルの習得が生活的自立や精神的自立につながります。そして、ソフトスキルやハードスキルを磨くことで、経済的自立への道を拓けるでしょう。経済的・精神的自立の上に、社会的自立があります。スキルアップの先に、主体性をもって社会と関わり、会社や社会に貢献できる未来を描けるでしょう。
(出典:文部科学省「高校生のライフプランニング」)
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