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2024.06.01

コラム

 

発達障害(ASD、ADHD)の適職:仕事が続かないと悩むあなたに適したはたらき方

ASDやADHDの方のなかには、「仕事が続かない」と悩んでいる方がいらっしゃるかもしれません。障害者支援などを行う独立行政法人の調査によると、発達障害のある方が就職後、職場に定着している割合は71.5%で、約3割の方が離職しています。発達障害の方にとって仕事を続ける難しさとはどのようなものでしょうか。また、長くはたらき続けるためには、どのようなことに留意すればよいのでしょうか。発達障害の方に向いている仕事や、仕事探しのポイントを解説します。

発達障害(ASD、ADHD)の適職

発達障害の種類と特徴

そもそも発達障害にはどのような種類と特徴があるのでしょうか。発達障害は、脳機能の発達に関わる障害で、現れる特性によって主として3種類に分類されます。

●自閉症スペクトラム障害(ASD)
●注意欠如・多動症(ADHD)
●学習障害(LD)/限局性学習障害(SLD)
このほか、吃音(症)やトゥレット症候群なども発達障害に含まれます。発達障害の種類は線引きがあいまいで、特性を見てもASDとADHDには重なり合う部分が多く、複数の障害が併存することもあります。特性の現れ方や程度には個人差があるため、障害と折り合いをつけるには障害の種類よりも自身の特性を把握することが大切です。

自閉症スペクトラム障害(ASD)

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、先天的な脳機能障害が原因と考えられ、特性としてコミュニケーション面の困難や興味関心の偏重などが挙げられます。かつては自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害と診断されていましたが、2013年、アメリカ精神医学会が診断基準「DSM-5」を発表して以降、自閉症スペクトラム障害(ASD)に統一されました。

人によって異なりますが、以下の特性が現れることがあります。

コミュニケーションの困難

ジェスチャーやニュアンスなど非言語コミュニケーションに疎く、その場の空気を読み取ったり、相手の気持ちを察したりすることが不得意だといわれています。意思疎通が苦手で、「一方的に会話を進めてしまう」「アイコンタクトができない」という方もいるでしょう。

臨機応変な対応が不得意

独自のルールやルーティンにこだわりをもち、突発的な事態や予定変更にストレスを感じるケースが多いといわれています。

感覚過敏(または鈍麻)

聴覚や視覚に対する刺激に対し、過剰に反応してしまう特性です。雑音や照明、カラフルな色などにストレスを感じる場合があります。

特定の分野で能力を発揮する

サバン能と呼ばれる特異な能力を発現することがあります。サバン能には、卓越した記憶力を示す「断片的才能」や、芸術分野で技術や感性を発揮する「卓越した才能」などがあります。

発達障害の方が仕事を続ける難しさ

発達障害の特性とはたらき方にミスマッチが生じると、心身に負担がかかり、仕事を続けることが困難になります。特に職場の方の理解や協力が得られない場合、長期就労は容易なことではありません。ASD、ADHDの方は、以下のようなはたらきづらさを抱えることがあるようです。

ASDの方が仕事を続ける難しさ

ASDの方は精一杯仕事に取り組んでいても、「人の話を聞いていない」「仕事ができない」という印象を周囲に与えてしまうことがあるようです。なぜそのような印象を与えてしまうのか、原因となる特性を取り上げます。

コミュニケーション面のはたらきづらさ

●あいまいな指示を理解するのが困難
●報告・連絡・相談が苦手
●良好な人間関係を構築することが難しい
●社会常識や上下関係を理解しづらい

対応力に起因するはたらきづらさ

●予定外のタスクに対応するのが苦手
●ハプニングが起こるとパニックになる
●TPOに合わせた振る舞いが難しい

感覚過敏(または鈍麻)によるはたらきづらさ

●環境によっては仕事に集中しづらい
●感覚刺激がストレスとなり疲労を溜めやすい

詳細な指示や言外の意図を理解しづらいASDの方は、「逐一、指示しなくても自分の判断で動きなさい」と職場で叱責を受けるケースがあります。なぜ叱責されるのか理解できず反論し、人間関係が悪化することもあるようです。また、自分の体調を把握しづらい方は、不調に気づかず出勤したり知らず知らず疲労を蓄積したり、無理をしてしまうケースも少なくありません。

マルチタスクや臨機応変な対応、対人折衝能力が求められる仕事は避けた方がよい場合があります。そのため営業職や接客業などへの就職を目指す場合は、仕事内容や職場環境を慎重に確かめる必要があるでしょう。

ADHDの方が仕事を続ける難しさ

不注意・多動性・衝動性という特性のあるADHDの方は、ミスマッチな仕事に従事するとミスや作業放棄が発生するケースがあります。そのような状況が重なると社内評価の低下や社外からのクレームに発展し、長期就労は難しくなるでしょう。ADHDの方が抱えやすいはたらきづらさを取り上げます。

不注意によるはたらきづらさ

●書類の誤字脱字や抜け漏れ、計算ミスを起こしやすい
●遅刻が多い
●忘れ物が多い
●メモが苦手
●タスク整理が苦手で重要なタスクを後回しにしてしまう
●スケジュール管理が苦手で期限を守れない

多動性によるはたらきづらさ

●長時間同じ姿勢ではたらくことが難しい
●体を小刻みに揺らしてしまう

衝動性によるはたらきづらさ

●指示を最後まで聞かずに作業してしまう
●会話の途中で話の腰を折ったり、口をはさんだりしてしまう
●断りなく別の作業に移ってしまう

ADHDの方は、マネージャー、秘書のようなスケジュール管理が求められる仕事や、医療、機械操作といったケアレスミスが許されない仕事は、ミスマッチが起こりやすい傾向にあります。

発達障害の方が仕事探しで大切にしたいこと

発達障害の方が就労する上で最も重視すべきことは、特性と仕事のマッチングです。キャリア目標を立てる前に、特性を理解し自分に合ったはたらき方を模索しましょう。発達障害の方が行うべき仕事探しのプロセスを紹介します。

自己理解を深める

自分の得意・不得意やストレス因子を把握することが、長期就労への第一歩です。前章で取り上げたはたらきづらさの中に、自分に当てはまる特性がないか書き出してみることをおすすめします。

自分の特性を明確にすることで、対処法を見出せることもあります。たとえば、「スケジュール管理やタスク管理が苦手」という方は、リマインダーアプリの活用によってミス防止を図れるかもしれません。また、聴覚が過敏な方はノイズキャンセリングイヤホンなどのツールで騒音を抑える方法もあります。

ただし発達障害の方に限らず、「自分はこうありたい」という願望や自己評価の低さによって、自己理解をうまく図れないことがあります。客観的な視点を取り入れると、冷静な分析や新たな気づきにつながるでしょう。自分はどのような特性をもっているのか、家族や知人、かかりつけ医、発達障害者支援センターのスタッフなど、第三者の意見を求めることをおすすめします。

職場の雰囲気や文化をリサーチする

発達障害の方が長くはたらくためには、職場の雰囲気や文化が自分に合うかどうかも重要なポイントです。なるべく多くの情報をリサーチしましょう。職場の雰囲気を実際に体感できる企業実習のような機会があれば、積極的に活用することをおすすめします。口コミサイトや人づてでは推し量れない部分に気づけるでしょう。

たとえば、「頻繁に電話がかかってくる環境にストレスを感じた」「自分には難しい業種だと思っていたが、マニュアルが整備されていてスムーズに作業ができた」など、実際に体験してこそわかる一面があるかもしれません。

一定期間、試行的に勤務する「障害者トライアル雇用」という制度もあります。職場環境や仕事内容への理解を深めてから継続雇用契約を結べるので、ミスマッチの防止につながるでしょう。体調に不安のある方は、最大12カ月かけて徐々に20時間以上の就業を目指す「障害者短時間トライアル雇用」制度の活用を検討してはいかがでしょうか。

自分に合った雇用枠を選択する

発達障害のある方は、業種や職種だけでなく雇用枠も自分に合ったものを選択する必要があります。雇用枠は、障害者を対象とした「障害者雇用枠」と、障害の有無を問わない「一般雇用枠」の2種類です。

一般雇用枠において障害を開示するか否かは本人の意思に委ねられ、開示する場合は「オープン就労」、非開示の場合は「クローズ就労」と呼ばれることがあります。各雇用枠のメリット・デメリットを見ていきましょう。

障害者雇用枠

障害者雇用を行う企業には、障害のある従業員に対する差別禁止や合理的配慮が義務づけられています。改正障害者雇用促進法の概要には、「出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること」などの合理的配慮が明文化されています。そのため障害者雇用枠で就労すると、仕事と治療の両立を図りやすいでしょう。応募の際に配慮事項を明確に記載すると、ミスマッチの防止につながります。

企業によっては障害者雇用担当者を配置し、就労移行支援事業所との連携や入社前後の面談などさまざまなサポートを行っている場合があります。ただし一般雇用枠と比較すると求人数が少なく、給与水準も低いのが現状です。

一般雇用枠(オープン就労)

2024年、改正障害者差別解消法が施行されて以降、たとえ一般雇用枠であっても、企業側は障害のある従業員に対し合理的配慮を行う義務があります。そのため、求職者が障害を開示すれば、労働条件や労働環境、補助具の提供など合理的配慮を受けられる可能性があります。

ただし、すでに制度が整っている障害者雇用と異なり、求める配慮が得られるかどうかは、各企業の裁量に委ねられる部分が大きいでしょう。それでも障害者雇用枠と比較すれば求人数が多く給与水準も高いため、一般雇用枠に的を絞るのも選択肢の一つです。

一般雇用枠(クローズ就労)

障害者手帳(発達障害の場合は精神障害者保健福祉手帳)を取得していても、就労の際に障害を開示する義務はありません。障害の有無にとらわれず、自分に合った求人を探したいという方にとって、クローズ就労も選択肢の一つでしょう。

ただし合理的配慮は望めないため、万一、特性によって業務に支障が出た場合、障害を知らない上司から叱責を受けたり、人事評価が下がったりする可能性があります。また、人によっては障害の非開示に後ろめたさを感じ、職場の人間関係に影響を及ぼす場合もあるでしょう。クローズ就労を選択する際は、特性に合った仕事を選び、体調に影響が出ないよう事前に対策を行うことが大切です。

福祉的就労

一般企業ではたらくことが難しい場合、障害者就労施設などで福祉的なサポートを受けながらはたらく「福祉的就労」という道もあります。訓練を兼ねているため、作業時間や作業量は利用者の希望が優先されますが、高額収入は見込めないでしょう。

就労サービスの活用を検討する

どのような雇用枠を選択するとしても、専門機関のサポートは就労の後押しになります。障害や就労の相談、職業訓練、職場定着など、必要なサポートに応じて相談先を選ぶとよいでしょう。発達障害のある方が活用できる就労サービスを以下に取り上げます。

ハローワークでは発達障害者雇用トータルサポーターがカウンセリングを行っているほか、地域障害者職業センターではハローワークと連携を図りながら職業評価、職業準備支援などのサポートを実施しています。

また、全国に3301カ所(2020年10月時点)ある就労移行支援事業所では、最大24カ月間にわたって就労に向けたトレーニングを受けられます。約9割の人が無料で通所しており、職業スキルの向上だけでなく、障害受容や体調管理、職業診断など、サポートが充実。就職活動はもちろん就職後の定着支援までカバーする事業所もあります。民間企業や社会福祉法人、NPO法人などが運営しており、支援内容や特色は事業所ごとに異なるため、事前に見学や問い合わせをしてから利用するとよいでしょう。

発達障害の特性を活かせる仕事とは?

一般論として、発達障害の方はマルチタスクが求められる仕事よりも、専門性の高い仕事で能力を発揮しやすいといわれています。ASD、ADHDの方が特性を活かせる仕事を紹介します。

ASDの特性を活かせる仕事

ASDの方が仕事で活かせる長所として以下のような特性が挙げられます。

ASDの方が仕事で活かせる特性

高い記憶力
高い規範意識
論理的な思考
高い視覚処理能力・観察力
ルーティンワークが得意
関心分野に対する集中力とこだわり

「高い規範意識」をもつ方は、法務などルールに則った仕事で能力を発揮する可能性があります。「論理的な思考」に秀でた方は、プログラマー数学者の適性があるかもしれません。「高い視覚処理能力」を活かす職種は、プログラムに潜む不具合を見つけるデバッカー校正者CADオペレーターなどが挙げられます。また、ASDの方は興味関心のある分野で専門性を発揮する傾向にあり、技術者クリエイターとして活躍する人もいます。

ADHDの特性を活かせる仕事

では、ADHDの方が仕事で活かすべき特性には、どのようなものがあるでしょうか。

ADHDの方が仕事で活かせる特性

発想力が豊か
行動力が旺盛

ADHDの方はスケジュールなどに縛られることが苦手な反面、自由度の高い仕事で能力を発揮できる可能性があります。フリーランスや自営業など、自分の思いのままに行動できる仕事が向いているかもしれません。 一般論として、ADHDの方は発想力が豊かで独創的なアイデアを生み出すことが得意といわれており、起業家クリエイターに向いている可能性があります。ただし特性の種類や発現の仕方は人によって異なるため、自分の特性を見極めることが大切です。

発達障害の方は「先端IT」にも適性がある

発達障害者の中でも特にASDの方は、先端ITにも適性があるといわれています。先端ITには、直感的思考より論理的思考が求められるとともに、トライアルアンドエラーを繰り返す集中力が求められます。そのため「論理的思考」や「関心分野に対する集中力とこだわり」をもつASDの方にとって、能力を発揮しやすい分野といえるでしょう。

また、ASDならではの「高い規範意識」や「高い視覚処理能力・観察力」は、プログラミングにおける法則の発見や定式化、デバック、保守運用などさまざまな場面で役立ちます。コミュニケーション面に困難のあるASDの方も、リモート化や分業化が進んでいる先端IT分野であれば、人間関係の悩みを抱きづらいという利点があるでしょう。

ASDの方には、一つの道を究めるタイプが多いといわれています。先端IT分野でも、探究心を活かし卓越した専門スキルを習得したASDの方は少なくありません。パソコンとの親和性が高い方は、先端ITの適性を探ってみてはいかがでしょうか。

(関連記事:「達障害のある人がエンジニアに向いている理由とは?就職に必要なスキル・知識を解説」)

発達障害の方が多く活躍する「先端IT」の仕事とは?

そもそも先端ITとはどのような仕事でしょうか。ひと言でいえば、AI(人工知能)やloT、ビッグデータなどの最先端技術に精通し、DXの実現に貢献する仕事です。最先端技術が求められるという点で、システムの運用や保守を行う「従来型IT」と区別化され、先端ITもしくは高度ITと呼ばれています。

急速に進展・細分化する先端IT分野では、AIエンジニアやデータサイエンティストなどさまざまな人材が活躍。需要が高まる先端IT分野では熾烈な人材獲得戦が繰り広げられており、先端ITとの親和性が高いASD人材に注目が集まっています。海外では、SAPやMicrosoftなどの大手IT企業が自閉症雇用プログラムを導入し、ニューロダイバーシティを推進。その動きは、日本国内にも広がっています。

発達障害の特性を理解して、長く続けられる仕事を探そう

発達障害の方が求職する場合、自分の特性を理解し、仕事と特性がマッチしているかどうかを慎重に検討することが大切です。内定獲得に重きを置きすぎるあまり、安易にミスマッチな仕事に就いてしまうと、業務上のストレスによって適応障害などの2次障害を招いたり、転職を繰り返したりするケースがあります。

発達障害は、コミュニケーション能力や社会性に悩みを抱えやすい障害ですが、他者の協力やツールなどによって苦手分野を補完すれば、長期就労への道が拓けるでしょう。むしろ、突出した才能をもつことの多い発達障害の方は、人並み以上に高いパフォーマンスを発揮できる可能性があります。就労移行支援事業所など第三者の支援を受けながら特性に対する理解を深め、ライフプランを設計してみてはいかがでしょうか。

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