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2024.11.15

コラム

 

発達障害(ASD、ADHD)のある人がマルチタスクへの苦手意識を払拭するには。脳科学からみた原因と対処法

ASDやADHDなど発達障害のある人は、マルチタスクに苦手意識を感じる場合があります。しかし、効率化を優先する現代のビジネスシーンでは、マルチタスクへの対応を求められる場面もあるでしょう。なぜ発達障害のある人はマルチタスクに不向きといわれるのか、どのような対処法があるのか知っておくことで、マルチタスクへの抵抗感が和らぐかもしれません。そこで今回は、発達障害のある人を対象にマルチタスクの基礎知識と対処法を紹介します。

発達障害(ASD、ADHD)の人がマルチタスクへの苦手意識を払拭するには。脳科学からみた原因と対処法

仕事におけるマルチタスクとは

ASDやADHDなど発達障害のある人は、マルチタスクに苦手意識をもつ場合があるといわれています。マルチタスクとは複数の作業を並行して実行することを指し、ビジネスシーンでは次のような例が挙げられます。

  • 電話対応しながらメールをチェックする
  • 会議でディスカッションに参加しながら、議事録を取る
  • 動画資料を視聴しながら、スライドを作成する

また、複数のプロジェクトを担当し、進捗管理しながら同時に進めることもマルチタスクにあたります。なおマルチタスクの対義語である「シングルタスク」は、1つの作業に集中して取り組むことを指す言葉です。

発達障害の有無にかかわらず、人間の脳はマルチタスクに対応していない?

人はどのようにマルチタスクを処理するのか、そして発達障害のある人はなぜマルチタスクに苦手意識を覚える傾向にあるのか、脳科学者の見解を交えて解説します。

前頭葉でマルチタスクを処理するメカニズム

近年の研究で、マルチタスク処理の主導権を握るのは脳の前頭葉であることがわかってきました。人がマルチタスクに取り組む際、前頭葉では各タスクに対応したニューロン(神経細胞)が存在します。

前頭葉とは、大脳の前部分に位置し、注意・思考・感情などを司る器官

大阪大学の研究チームは、人がマルチタスクに取り組んでいる間、1つのタスクに対応したニューロンだけがはたらき、ほかのニューロンは不活性化の状態を保つことを見出しました。各ニューロンが情報処理の役割をバトンタッチしながら順序良くはたらくことで、余計なエネルギーを使うことなくマルチタスクへの対応を可能にしています。

人がマルチタスクに取り組んでいる間、1つのタスクに対応したニューロンだけがはたらく

出典:石田祥代.『特別な教育的ニーズのある優秀児とその教育的支援に関する動向』)

発達障害のある人はマルチタスクが不得手といわれる理由

発達障害は前頭葉の機能障害が原因だと考えられており、以下のような認知機能の特性を生じる場合があります。これらの特性が、マルチタスクの困難につながるのです。

マルチタスクの困難につながる認知機能の特性例

マルチタスクの困難につながる認知機能の特性例

人は基本的にシングルタスクしか処理できない

マルチタスクは人によって得手不得手がありますが、厳密にいうと発達障害の有無にかかわらずマルチタスクの実行はほぼ不可能だといわれています。スタンフォード大学のオフィル博士は、「私たちの脳は複数のタスクを同時に実行している訳ではなく、タスクスイッチを行っているに過ぎない」と語っています。

脳は複数のタスクを同時に実行している訳ではなく、タスクスイッチを行っているに過ぎない

マルチタスクが得意な人も、複数のタスクを同時進行している訳ではなく、タスクを細分化して次から次へと絶え間なく実行していることになります。発達障害のある人は、このタスクスイッチに時間がかかることから、マルチタスクに苦手意識を覚えるのです。

仕事内容や作業環境がマルチタスクを困難にする可能性

発達障害のある人がマルチタスクに困難を覚える原因として、認知機能の特性の他に環境要因が考えられます。たとえば、ASDの人は急な予定変更にストレスを感じ、パニックを起こすケースがあります。着実にマルチタスクをこなすには、予定が流動的だったり突発的な依頼が入ったりする業務は避けた方が良いでしょう。

ADHDの人は、口頭での曖昧な指示を理解しづらい傾向にあり、明確なガイドラインのない環境ではたらきづらさを感じるかもしれません。ADHDの人は発想力や独創性に富む傾向にありますが、厳格なルールや手順に縛られる環境ではストレスを感じ、パフォーマンスを発揮できない可能性があります。

また、感覚過敏の特性をもつ発達障害のある人が、光や音などを調整しにくい環境で作業をすると、仕事のタスクに加え「外部刺激に対処する」というタスクが追加されてしまいます。席の移動やテレワークへの移行を職場に相談するなどして、はたらく環境を整える必要があるでしょう。

発達障害のある人がマルチタスクに対応するには

発達障害のある人は、自分の特性や得手不得手を理解し適切な対処法を学ぶことで、マルチタスクへの苦手意識を緩和できます。おすすめの対処法は次の6つです。

  1. マルチタスクをシングルタスクに細分化する
  2. 優先順位をつけ可視化する
  3. 即座にメモを取る
  4. タスク整理をする時間を設ける
  5. スケジュールにバッファをもたせる
  6. 合理的配慮を得られるよう相談する

これらの対処法について、それぞれ解説します。ぜひ、自分に合う方法を見つけてください。

(1)マルチタスクをシングルタスクに細分化する

発達障害のある人は、1つの作業「シングルタスク」に集中しやすいという強みがあります。まずは、マルチタスクをシングルタスクに分解し、必要な作業を洗い出しましょう。

システム開発に関する作業洗い出しの一例

システム開発に関する作業洗い出しの例

(2)優先順位をつけ可視化する

シングルタスクに優先順位をつけ、ツールやアプリを活用しながら進捗状況を可視化しましょう。色や記号で分類すると、視覚効果で全体把握がスムーズになります。

システム開発に関するタスク管理表のイメージ

システム開発を例にしたタスク管理表のイメージ

アメリカ合衆国第34代大統領・アイゼンハワーは、タスクを緊急度や重要度に応じて4分割する管理手法「アイゼンハワー・マトリクス」を提唱しました。下記の図のように、「アイゼンハワー・マトリクス」を用いて優先順位を可視化するのも一つの方法です。

システム開発に関する優先順位を可視化する方法

システム開発に関する優先順位を可視化する方法

短期的には「重要かつ緊急」なタスクが優先ですが、「重要だが緊急ではない」タスクの時間を継続的に確保することが大切です。目の前のタスクに追われて、職場の人とのコミュニケーションや自身のヘルスケアが疎かになっていないか、定期的に振り返ってみるのも良いでしょう。日々、技術革新が進むIT分野で活躍するには、リスキルや情報収集も欠かせません。そのような「重要だが緊急ではない」タスクを無理のない範囲で実践することにより、安定的なはたらき方や自己実現に一歩近づけます。

(3)即座にメモを取る

発達障害のある人は、一時的な記憶の保持に困難を感じる場合がありますが、メモの習慣化によって特性をカバーできる可能性があります。ウェアラブルメモなどを活用し、「すぐ書き留められる」「いつでも確認できる」状態を保つことが理想的です。

(4)タスク整理をする時間を設ける

タスク整理だけを行う時間をあらかじめ設定し、スケジュールを最新の状態に更新しましょう。先の状況を見通しながら安心して作業を進められ、抜け漏れの防止につながります。

(5)スケジュールにバッファをもたせる

バッファとはゆとりのこと。緻密にスケジュールを立てても、予期せぬ出来事や体調不良などで狂いが生じることは往々にしてあります。スケジュール管理にストレスを感じないためにも、またプロジェクトを確実に遂行するためにも、スケジュールにゆとりをもたせておきましょう。

(6)合理的配慮を得られるよう相談する

一人で完璧にタスク管理をこなそうと気負う必要はありません。周囲の協力を求める姿勢を身につけることで、自然とマルチタスクのスキルも向上します。たとえば、口頭での指示が理解しづらい人は、メモやチャットなどの文書で一つずつ指示してほしい旨を伝えてみましょう。また、あらかじめ仕事のスケジュールを社内の人と共有し、定期的に進捗状況をチェックしてもらう対策も有効です。

Neuro DiveではITスキルとともに仕事術を習得できる

DX人材を育成する就労移行支援事業所「Neuro Dive」では、先端ITスキルの習得に向けた学習プログラムとともに、タスク管理法を含めたビジネススキル講座を提供しています。企業に貢献できる人材をめざすには、専門スキルのみならずマルチタスクへの対処法を身につける必要があります。座学だけでなく、ポートフォリオ作成や体験実習などを通じてタスク管理を実践。また、コミュニケーションスキルの向上を図り、周囲と協働しながらタスク完遂をめざせる人材を育成しています。

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