ADHDのある人が時間感覚で困る理由と改善のための具体的な工夫

時間の経過が早く感じる

ADHDのある人には「過集中」という特性があり、興味のある作業に没頭すると時間感覚が失われます。スマートフォンを見ているうちに3時間が経過したり、電車で本を読んでいて目的地を通り過ぎてしまったりする経験は珍しくありません。

この過集中の状態では、ドーパミンが過剰に分泌され、周囲の情報が入らなくなるため、時間の経過に気づけなくなります。

時間の経過が遅く感じる

一方で、興味のない作業やつまらない時間は、実際よりも長く感じられるでしょう。ADHDのある子どもは主観的な時間経過が早いことが知られており、実験では60％程度のズレが認められ、時間感覚を再現する課題でも定型発達児童よりも正確さが劣ることが報告されています。

この特性により、退屈な待ち時間や嫌いな作業時間が余計に長く感じられ、苦痛を増大させます。

ドーパミンが影響している

ADHDの時間感覚の問題は、ドーパミンの機能障害が主な原因です。

ドーパミンは集中力や意欲を高める神経伝達物質ですが、ADHDではその分泌が非常に不安定になっています。強制的な作業ではドーパミンが不足して集中できず、好きな作業では過剰に分泌されて時間感覚を失うのです。

この不安定さが、時間の感覚を正確に把握することを困難にしています。

スケジュール管理ができない

ADHDのある人は、タスクに必要な時間を実際よりも短く見積もる傾向があります。ワーキングメモリの働きに課題があるため、「30分で終わらせる」と決めても、その時間の経過を意識し続けることが困難です。

そのため、予定通りに物事を進めることができず、スケジュール全体が破綻してしまいます。

約束の時間が守れない

時間の見積もりの甘さは、遅刻という形で現れます。準備というタスクを「朝食を食べる」「シャワーを浴びる」「服を着替える」といった作業に小分けして計画できないため、時間の計算を誤り、待ち合わせ時間に遅刻してしまうのです。

また、何かに集中していると声をかけても耳に入らなくなり、次の行動に移れないことも多いでしょう。

優先順位がつけられず長時間経過してしまう

ADHDのある人は優先順位をつけることが苦手で、どのタスクから手をつけるべきか判断できません。興味関心の高いことには集中できる一方で、重要度や緊急度を考慮した判断が困難です。

その結果、重要でない作業に長時間を費やしてしまい、本当に必要な作業に取り組む時間がなくなってしまいます。

「タイムログ」の記録と分析

タイムログの記録は、自分の行動パターンを客観視するために効果的な方法です。スマートフォンのストップウオッチ機能を活用し、朝食や着替え、仕事の準備といった日常の各行動にかかる時間を細かく計測してみてください。

この記録を継続することで、実際の所要時間と自分の感覚とのズレを把握できるようになります。

スケジュールの可視化

スケジュールの「見える化」は、時間の流れを直感的に理解するために重要な取り組みです。「時間」と「活動内容」をそれぞれカードにして組み合わせ、文字とイラストやピクトグラムを併用した視覚的な表示を作成してみましょう。

流れは「上から下へ」または「左から右へ」の配置を基本とし、予定変更にも対応できるよう柔軟性を持たせることが大切です。

アラーム・タイマーによる補助

時間の経過を音で知らせる仕組み作りは、行動の切り替えに有効な手段です。「音が鳴ったら外に出る」「この音が鳴ったら食事を始める」といった条件反射を利用し、行動のきっかけとしてタイマーを活用してください。

ただし、全ての行動を同じ音にするとパニックを起こす可能性があるため、行動ごとに異なる音やタイマーを使い分けましょう。

支援機関や専門家の力を借りて生活習慣を整える

1人での改善が困難な場合、専門機関のサポートを受けることは重要な選択肢です。障害者就業・生活支援センターやクリニックでのカウンセリングを通じて、生活習慣の見直しや具体的な対処法が学べます。

特に睡眠不足は時間感覚の問題を悪化させるため、専門家の指導の下で規則正しい生活リズムを確立するようにしましょう。

周囲の理解を得る伝え方

職場での理解を求める際は、上司や人事部門に対して、個人の困りごとと必要な配慮を具体的に伝えることが重要です。「時間の感覚がつかみにくく、作業の見積もりが困難で締め切りに間に合わないことがある」といった業務への影響を明確に説明し、診断名だけでなく実際の職場で困っていることについて丁寧に伝えてみてください。

また、「声のかけ方や確認の仕方」も併せて伝えることで、同僚からの適切なサポートを得やすくなるでしょう。

合理的配慮の受け方

教育機関や職場では、法的に「合理的配慮」を求める権利があります。時間管理の困難に対しては、作業内容の分割や適切な量への調整・定期的な休憩時間の確保・静かな環境での作業許可などが配慮例として挙げられます。

まずは、申請方法を確認してみましょう。申請には医師の診断書や意見書を添付し、具体的な配慮内容を明確に記載することで適切な支援を受けやすくなります。

得意な時間帯・作業傾向を活かす

自分の特性を理解し、最も集中できる時間帯や作業方法を見つけることが、効率的なはたらき方につながります。「ポモドーロ・テクニック」（25分作業・5分休憩）のような短時間集中型の作業方法を取り入れて、過集中を活かして休憩を挟めば、成果を持続しやすくなります。

また、クラウドカレンダーやタスク管理アプリを活用し、デジタルツールで時間管理を補完することも有効な手段です。

ミスを減らし、自己効力感を取り戻す習慣作り

継続的な成功体験の積み重ねは、自信回復と症状改善に重要な要素です。作業手順のマニュアル化とチェックリストを活用して、見落としや抜け漏れを防ぎましょう。小さな達成目標を設定し、完了時にマークを付ける習慣をつければ、視覚的な達成感を得られるでしょう。

自己効力感を高めるために、過去の成功体験を振り返り、自分の強みを再認識することも大切な取り組みです。