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2024.07.04

インタビュー

 

【卒業生の親御さまに聞きました】支援員との信頼関係を支えにつくりあげた、新たなキャリアプラン

Neuro Diveでは、ITアドバイザーと支援員が個々の特性や目標に応じたサポートを行い、先端IT分野で活躍する人材を育成しています。利用者の方にとってスキル習得の土台となるのは、親御さんの惜しみない愛情によって培われた感性ではないでしょうか。Neuro Dive利用者の親御さんは、どのようにお子さんと向き合い、ニューロダイバースな成長を支えているのでしょう。今回は、Neuro Dive卒業生のお母さまにお話を伺いました。

Neuro Dive卒業生親御さんインタビュー

O.Aさん

ご長男が発達障害と診断され、公認心理師と学校心理士、特別支援教育士の資格を取得。「自分の経験を活かして、発達障害児の育児に悩む保護者の力になりたい」と、市が運営するこども発達相談センターの心理発達相談員やスクールカウンセラーとして活躍されてきました。子どもの興味関心に寄り添う子育てを実践しながら、ご長男の自立をサポート。大学卒業後、職場環境とのミスマッチや転職を経験しながらも、Neuro Diveでの学びを経て新たな活躍の場を見出したご長男を支え続けています。今回の記事では、障害に対する視点や子育て論を語っていただきました。


発達障害支援の転換期に就学

長男に多動性が現れたのは2歳の頃です。当時、プロダクトデザイナーだった私は仕事を続けたいと考えていましたが、入園を許可してくれる保育園はありませんでした。唯一、統合保育を行っている教会運営の幼稚園が受け入れてくれて、長男は集団生活を体験できたのです。発達障害に関する医療技術や理解が今ほど進んでいなかった時代だったこともあり、小学校に上がる際の検診でも診断が下りることはなく、通常学級に入りました。

ただ、通常学級に在籍している以上、周りから逸脱してはならないという不文律に長男は押しつぶされてしまいました。発話がなくなり、家では癇癪を起こすようになったのです。支援学級への編入をお願いしたところ校長先生も支援学級の先生も鷹揚な方で、快く受け入れてくださいました。長男は支援学級で図工に夢中になり、たちまち元気を取り戻しました。

小学校在学中に、地域の児童相談所でADHDと診断されました。ちょうどその頃、発達障害者支援法が成立し、通常学級で合理的配慮を受けられることになったのです。新任で赴任されて3年生から受け持ってくださった先生は、「発達障害について何もわからないので教えてください!」と助言を求めてくださいました。授業のユニバーサルデザインに関する資料をお渡ししたところ、「とにかくやってみます!」と全力で取り組んでくださったのが、大変印象に残っています。

子どもへの理解を深めるための資格取得

その後、長男は医療機関でASDと発達性ディスレクシア障害の診断を受けました。親として何ができるのか悩んでいたところ、電車移動中に網棚から自治体の広報誌が落ちてきて、何気なく開いたら発達障害学習支援員を養成する講座の記事が目に入ってきたのです。その講座を1カ月間受講したことがきっかけで教育心理学への興味が芽生え、通信講座や大学講座を利用しながら特別支援教育士などの資格を取得しました。

それまで発達障害の専門家から説明を受けても教育用語や心理学用語の理解が及びませんでしたが、学びを深めるうちに実体験と用語がつながりあって、実のある知識として体にしみ込んでいきました。それは好奇心を満たしてくれる楽しい経験でした。しかし学びの原動力は好奇心だけでなく、社会に対する反発もあったかもしれません。発達障害と診断されただけで我が子が否定的な目で見られたり、保育施設に受け入れてもらえなかったり、排他的な扱いを受けることにショックと憤りを感じていたのです。40代で小学校の教員免許と学校心理士の資格を取得し、50代になってちょうど国家資格化した公認心理師試験に合格しました。

ただ、目の前にいる子どもと本に書かれていること、診断名の間にある違和感はずっと消えませんでした。ASDの傾向がある人は、「人の気持ちを理解できない」「空気が読めない」と言われがちですが、長男やセンターの子どもたちと接していると、感情をキャッチする感度の高さを感じます。会話のキャッチボールや目線合わせなど定型的なソーシャルスキルが同年齢の子どもより低いというだけであって、人の気持ちや感情に非常に敏感です。 長男が高学年の頃、「発達障害の診断は占いみたいだね」と言ったことがありました。発達障害の診断基準は、多かれ少なかれ誰にでも当てはまるものなので、言い得て妙だと思いました。私もADHDの傾向があると言われればそうかもしれませんし、主人も個性的でアーティスティック。カラフルな家族なので、人の多様性をごく当たり前のものとして受け止めていたのかもしれません。

興味関心に寄り添うことが成長への近道

お子さんが発達障害と診断された親御さんは、「食事に時間がかかる」「お風呂に入ってくれない」「上手に着替えができない」という日々の困りごとによって日常生活がうまく回らないと悩むことが多いでしょう。診断されたお子さんの多くは五感や体性感覚がセンシティブで、外部情報の処理や感覚の調整に労力を要することがあります。お子さんがどういった理由でイライラを感じているのか通訳してあげると、親御さんも「そういうことだったのか」と合点がゆくようです。困りごとにはお子さんなりの理由があってお子さんに非があるわけではない、とわかると親も子もストレスを軽減できます。

長男が診断された当初、行動分析学を応用した療育方法を取り入れてみましたが、私にはしっくりきませんでした。子どもがこちらの求めに応じれば成功報酬を与えるというアプローチだと、日常が訓練の場になってしまい生活を楽しめません。子どもを定型にはめ込もうとするよりも、大人が子どもの世界に入り込んで一緒に楽しんだ方が、日常生活がうまく回ることに気づきました。

長男が幼かった頃、入浴したがらない時はプラレールの線路をお風呂場まで延線して車両基地にしようとか、自宅で服を着たがらない時は「ここは南の国だ」と思えばいいやとか、子どもの興味関心にベクトルを合わせていました。興味関心に寄り添うと、子どものモチベーションが上がってキャパシティもどんどん広がっていきます。また、ある程度子どもを受け入れて欲求を満たしてあげると、親子の信頼関係が深まるのを実感しました。 日本では年齢ごとに発達の目安が設けられていて、平均基準をクリアしないとネガティブな考えに陥りがちですが、子どもはちゃんと成長します。「平均的ではない」というのはその子の魅力でもあるし、成長のペースを気にして子育てを楽しめないなんてもったいない。成長への焦りがその子を圧迫してしまうと回復に時間がかかるので、成長を待ってあげる方が結果的には近道だと感じています。

特性と職場環境のミスマッチによる転職

子どもの頃から植物や昆虫が大好きだった長男は、大学で生物学を専攻しました。就職活動では、専門知識を活かせる仕事を探しましたが、手探り状態が続いたのです。コミュニケーション面の難しさから情報交換の輪に加われず、キャリアセンターで得られる情報も十分とは言えませんでした。障害者雇用の説明会にも参加しましたが、漢字の苦手な長男には不向きな事務など、研究領域から離れた仕事ばかり。専門性を深めてから知識を活かせる仕事に就こうと、大学院進学を選択しました。

大学院の課程を修了後、実験・研究職に就くことはできましたが、職場環境と特性がマッチしていませんでした。内受容感覚が過敏な長男にとって、室温・湿度が高く絶えず機械音に悩まされる職場は過酷な環境といえます。閉塞感のある検査服や統一性のない仕事手順、残業なども、心身の負担になっていたようです。本人の説明力不足もあったかと思いますが合理的配慮を得ることはできず、転職の道を模索することにしました。 特性に合ったはたらき方について一緒に考え、「マルチタスクは不向きかもしれない。在宅ワークが望ましいのでは」と話し合ったものです。IT系を視野に入れて、web3のプログラマーを養成するオンライン講座を受講しました。さらに学びを深めたいとインターネットで情報収集を重ね、Neuro Diveに出会ったのです。

Neuro Diveで新たなスキルと仕事観を獲得

選んだ事業所は交通利便性が高く、本人の負担も少なかったようです。長男に本格的なプログラミング経験はありませんでしたが、中学生時代にゲームエンジンを使いたいとお年玉でパソコンを購入したこともあったので、元々この世界に興味を抱いていたのでしょう。Neuro Diveの利用を始めてからも、PythonやExcel VBAを活用した高度な学習プログラムに抵抗感をもっていないようでした。

通所開始から間もない頃、スマートフォンのLINEアプリで動く対話型チャットアプリを制作していました。ChatGPTの初期モデルを思わせるようなアプリです。大変楽しそうに披露してくれる姿を見て、モチベーションが上がっているなと感じました。支援員や利用者の方々との信頼関係があったからこそ、リラックスした状態で学べたようです。

長男は失敗に対する免疫力が高い方ではなく、失敗すると深刻なダメージを負うこともありますが、支援員の方はメンタルにも配慮してくださいました。就職活動に際しても、「この企業は最終面接の合格率が高い訳ではないから、結果をあれこれ心配にせずとにかく受けてみましょう」と、優しく背中を押すような声がけをたくさんしてくださったそうです。一人ひとりの思いに寄り添う支援があったからこそ、前向きな気持ちで就職活動に臨めたのでしょう。

「自分でペース配分を考えながら余裕をもって仕事に取り組みたい」「年収よりもはたらき方を重視したい」という長男の言葉には少し驚かされました。長男が仕事に対する価値観について自ら分析したことは、それまでなかったように思います。もう少し早くNeuro Diveに出会いたかったですね。

現在は障害者雇用枠で転職し、Neuro Diveでのリスキリングを活かしながら意欲的にはたらいています。今の会社では、求められることとスキルがつり合い、自分が何をすべきかわかっているので、心が迷子にならないようです。相談相手も明確で自分で見通しを立てられる、そういうはたらきやすさは長期就労に欠かせない要素だと思います。

隔たりのないノーマライゼーション社会へ

お子さんの就職活動や就労に不安を感じている親御さんは、心配ごとの状況を整理し、段階別の対応方法を準備しておくと気持ちが楽になると思います。たとえば、就労後に心身の健康状態が悪化することを想定して、まずは「休養を勧める」、それでも体調が安定しなければ「転職を考える」という対応策を準備しておくと、ゆとりをもってサポートできるのではないでしょうか。本人の感情と考え、行動をそれぞれ区別して観察し、心と体がリラックスできるよう余暇活動の工夫を促すことも有効です。

障害者雇用の制度に助けられている部分は大きいですが、少し先の未来はもっとフラットな社会になっていることを期待します。マイノリティとマジョリティという区別があるからこそ、ニューロティピカル・シンドロームが生まれるのではないでしょうか。普通に見られたいがために周囲の目ばかり気にして、自分の人生を生きられない人たち。その中には、心をむしばんでしまう人もたくさんいます。どのようなタイプの人も適材適所で楽しめる居心地のいい社会を実現できれば、そこに隔たりはありません。私も今の仕事を通して、世の中のかたちを変えていきたいと思っています。