ASDの特性は完璧主義につながりやすいと言われています。完璧主義の人は、「何事にも手を抜かない」というこだわりや責任感が強い半面、ときに自分を苦しめたり、仕事に支障をきたしてしまったりすることもあるでしょう。しかし、完璧主義は決してネガティブなものではなく、手に付き合えば、質の高い仕事やスキルアップの実現を後押ししてくれます。そこで今回は、ASDのある人が完璧主義を味方につけるコツを紹介します。

記事のポイント
- ASD(自閉スペクトラム症)のある人に見られがちな完璧主義は、「ハイコントラスト思考」や「強いこだわり」といった特性が関係している可能性があります。
- 完璧主義の特性である「頑固さ」「細かさ」は、「基準の高さ」や「鋭い観察眼」に変換して仕事に活かすことができます。
- 完璧主義の人は、技術職やクリエイティブ職などの領域で能力を発揮しやすいと言われています。
目次
なぜASDがあると完璧主義になりやすい?
ASDがある人の中には、「理想が高い」「ミスを許せない」「自分にも他人にも厳しい」という完璧主義の傾向をもつ人が多いと言われています。まずは、完璧主義との関連性が指摘されているASDの特性について見ていきましょう。
物ごとを白か黒かで捉える「ハイコントラスト思考」
ASDの特性の一つとして、「ハイコントラスト思考」が挙げられます。別名「白黒思考」「二極思考」と呼ばれ、その名の通り「白か黒」「0か100」という両極端の捉え方をする思考のこと。発達障害の中でもASDのある人に現れやすいと言われており、その原因は実行機能の不全にあるのではないかと考えられています。ハイコントラスト思考があると、曖昧な状態を受け入れられず「結果を出せなければ意味がない」という完璧主義的な考えに偏ることがあります。
特定なことへの「強いこだわり」
「限定された興味、こだわり」も、ASDの特性の一つです。この特性がある人は、特定の環境や行動、物ごとなどに強いこだわりをもち、「環境の変化に敏感」「同じ行動を繰り返す」といった傾向を示すことがあります。興味関心事をとことん突き詰めるこだわりや、正しい手順で作業をこなせる正確性も、このような特性のあらわれと言えるでしょう。
法則やパターンへの「あくなき探求心」
心理学者サイモン・バロン=コーエン氏は、「パターン・シーカーこそが人類の偉大な発明を導いてきた」と語りました。パターン・シーカーとは、法則を見いだすことに長けた人を指し、ASDがある人に多く見られると言われています。完璧な論理を追究し、考察の旅を続けるのもASDの特性の一つです。
将来を見通せないことへの「不安」
ASDがある人は、恐怖や不安などの感情と深く関わる扁桃体が過敏になりやすいと言われています。特性ゆえの失敗や叱責された経験が不安を呼び起こすケースもあるでしょう。また、脳の実行機能の特性によって、未来を思い描いたり、状況変化に柔軟に対応したりすることが苦手な傾向にあります。そのため、予測できない状況や失敗を過剰に恐れ、不安軽減策として完璧主義が機能することがあるのです。
中枢性統合の弱さによる「シングルフォーカス特性」
ASDの特性を説明するさまざまな仮説が立てられていますが、その一つに「中枢性統合の弱さ」があります。中枢性統合とは、複数の情報を集約し、物ごとを全体的に把握する能力のこと。「中枢性統合の弱さ」があると、局所的な情報の処理を優先するシングルフォーカス特性がはたらき、ほかの人が気づかないような些細なミスや不完全な部分を見つけ出せることがあります。その特性が、完璧主義とみなされることもあるでしょう。

完璧主義の落とし穴
完璧主義は、ときに諸刃の剣となります。強みである反面、次のようなネガティブな結果を招くケースも少なくありません。
- 意思決定や行動を遅らせる
- 他の人との間に軋轢を生む
- 自己肯定感が低くなる
ライフコーチのマーク・レクラウ氏は、完璧主義者が失敗を恐れるあまり行動を回避したり先延ばししたりして時間を浪費する危険性に言及しています。「新しいことに万全の準備で臨みたい」と思うあまり、昇進や成功の機会を逃すケースもあるでしょう。費やした時間や労力を無駄にしたくないと考え、非生産的な作業を続けてしまう「サンクコスト効果」を招いた場合、生産効率はさらに下がってしまいます。
そして、望む成果を得られないと、「自分には能力がないのではないか」という自己批判と、「周囲の期待を裏切ってしまった」という心苦しさによって、二重に傷ついてしまうことがあるかもしれません。自己批判は成長の糧ともなりますが、著名なエグゼクティブコーチは自己批判が脳を思考停止させ目標達成に向けた行動を妨げる、と語っています。一つの考えが頭の中をめぐる「反芻思考」の特性をもっている人は、なおさら自己批判のスパイラルに陥ってしまわないよう注意が必要です。
今すぐできる。完璧主義の「しんどい」をほぐす心のストレッチ7選
心理学には、不確かな状況を前向きに捉える「曖昧さ耐性」という概念があります。曖昧さ耐性とは、「白黒はっきりしない」「正解が一つではない」という状況でも、「なんとかなる」「面白そう」と前向きに捉える能力のこと。曖昧さ耐性は、未来予測が難しい時代を生き抜く上で有用なスキルと言えるでしょう。
ここで重要なのが「完璧主義」との関係です。完璧主義は「失敗を避けたい」「正解を求めたい」という心理傾向が強く、曖昧さを不安やストレスとして捉えがちです。そのため、完璧主義が強いほど曖昧さ耐性は低くなる傾向があります。逆に、曖昧さ耐性を高めることは、完璧主義による過度なプレッシャーを和らげ、柔軟な思考や挑戦を促す効果があります。つまり、両者は対極的な性質を持ち、曖昧さ耐性を育むことは「完璧でなければならない」という思い込みから自由になる第一歩なのです。
AIやITの世界でも、不十分な情報や曖昧な問題に取り組み、未確定要件から仮説を導き出す力は強みになります。一朝一夕に身につく力ではありませんが、少しずつ曖昧さへの免疫を作る方法を7つ紹介します。
「やらなくていいかも?」を見つける
「どのタスクも手を抜けない」と考えるのは完璧主義の美点ですが、時間や体力といったリソースには限りがあるため、いつか燃え尽きてしまいます。経済学者ヴィルフレッド・パレート氏が提唱した「パレートの法則」によると、成果の8割は、全体を構成する2割の要素から生み出されるそうです。

タスクに優先順位をつけ、「成果を生み出す2割」のタスクにリソースを集中投下することで、成果を最大化できるでしょう。優先順位の低いタスクは、勇気をもって切り捨てたり、AIや人に任せたりしながら、リソースの配分を最適化することがポイントです。
「70点で完了する」戦略
まずは「完璧」でなく、「完了」を目指しましょう。100点満点の資料を作り上げることより、たとえ70点でも完了として提出することを優先する方法です。会社は、散発的に100点の結果を出す人より安定して70点の結果を出す人を評価しますし、そもそも学校のテストと違い仕事に100点はありません。自分自身が100点だと思っても、上司やクライアントの評価基準が違っていた、ということもあり得ます。「70点の完了」を目指すことは、手抜きではなく戦略的な判断です。
走りながら考えたっていい
完璧主義の人は、情報や準備が不足している状態で実行に移すことにためらいを覚えるかもしれません。しかし、熟考している間に市場が変化してしまったり、競合他社に出し抜かれたりするリスクは高まります。意思決定のスピードが速い人は、仮説が確信に至る前に、とにかく走り出してみる「アクション・オリエンテッド(行動主義)」のマインドをもっています。走りながら仮説を方向修正したり、肉づけしたりする作業を繰り返し、完成度を高めることがスピード感の秘訣。方向修正の際も完璧を求めず、「合格ラインを超えていればOK」と即断することが大切です。

できなかったことより、できたことを数える
失敗から学ぶことは大切ですが、反芻の特性がある人は、失敗と向き合うことによって苦手意識が増幅する可能性もあります。失敗ではなく成功に目を向け、加点方式を採用しましょう。完璧主義の人は、自身の提案が採用されなかったとき「0点」と採点しがちですが、「前向きに発言できた」「指摘によって課題を見いだせた」という小さな成功体験を評価し、加点を積み上げてください。作家のジェームズ・クリアー氏は、「毎日1%の改善が長期的には大きな改善になる」と語っています。加点方式を継続することで、いつしか思考のクセが変わるかもしれません。
批判的な自分に名前をつける
思考や感情を「現実」と混同しないことが大切です。たとえば、チーム作業でミスをした人が、「致命的なミスをして、メンバーから嫌われた」と考え、チームを脱退したとしましょう。しかし、「現実」のミスは修復可能なミスであり、「現実」のその人は嫌われてなどいない、ということも考えられます。「思考」に従い、「現実」を見誤ってしまったケースです。このように思考と現実の区別がつかなくなる状態を、心理学者のスティーブン・ヘイズ博士は「認知的フュージョン」と呼んでいます。
思考を現実から切り離すには、「自己批判の声に名前をつけてキャラクター化する」のも良いでしょう。たとえば「ピーブス」や「バイキンマン」など呼びやすい名前でOKです。そうすることで、「ピーブスは、“チームプロジェクトに向いていない”と言っている。しかし、人との協働に喜びを感じたのも確か。将来のためにもチームプロジェクトの経験は必要だ」と、考えられるかもしれません。一過性の思考を切り離すことで、完璧主義の人が陥りがちな認知的フュージョンを脱け出せる可能性があります。

手を休めてぼんやりする
完璧主義の人は、「無為の時間」を過ごすことに罪悪感を覚えるかもしれません。しかし、ワシントン大学の神経学者マーカス・レイクル氏の研究によると、人の脳は通常活動時よりぼんやりしているときの方が15倍もエネルギーを消費するそうです。ぼんやりしているときに活性化する神経回路・DMN(デフォルトモード・ネットワーク)は、集中力の向上や新たなアイディアの創出を促します。ときには完璧主義をサボって、ぼんやりする時間を過ごしてみましょう。

思考と環境を変えて、完璧主義を味方につけよう
完璧主義は、ときに自分を苦しめたり、意思決定や行動の足かせになったりすることがありますが、上手に付き合えば心強い味方です。「リフレーミング」によって完璧主義に対する見方を変えてみると、新たな可能性が開けてきます(リフレーミングとは、固定観念の枠組みを変えることで、新たな認識を獲得する思考技術のこと)。
弱みを長所に変換する
完璧主義の弱点は、リフレーミングによってポジティブな側面へ変換できます。
| 完璧主義のネガティブな側面 | リフレーミング |
| 0か100で考える | 常に高い基準を目指し、努力を惜しまない |
| 細部が気になってしまう | 鋭い観察眼があり、見極め精度が高い |
| こだわりが強く頑固 | 信念が強く一貫性がある |
| 失敗を恐れる | リスク管理能力が高く、入念に物ごとを進める |
| 自分にも他人にも厳しい | 責任感やプロ意識の現れ |
完璧主義の人は、自分が納得するまで情報収集や熟考を重ねるため、独創的な結論に到達できることがあります。また、信念の強さや慎重な姿勢によって、周囲から信頼を勝ち取る場面も多いでしょう。
完璧主義の長所を活かせる仕事環境
完璧主義の美点を活かすには、下記のような環境が望ましいでしょう。
- スピードより品質の高さが重視される
- 細部へのこだわりや精密さが求められる
- ルールや基準が明確専門性が尊重される
- 責任感やプロ意識が求められる
- 作業に没頭できる
専門性を尊重する企業風土やプロ意識が求められる仕事において、完璧主義の人は能力を発揮しやすいでしょう。また、締切に追われる仕事よりも、時間的余裕をもって成果物一つひとつの品質を高める仕事の方が向いていると考えられます。その際、曖昧なルールや品質基準にストレスを感じやすいため、プロジェクトごとに明確なルール設定を行なう企業の方が望ましいでしょう。作業に没頭できる静かな空間で、専門性を高めながらスキルアップを図る、それが完璧主義の人にとって理想的なはたらき方と言えるかもしれません。
完璧主義の人は、仕事や趣味のマッチング次第で公私ともに輝ける
完璧主義がある人に適した領域3選
緻密さや探究心など、完璧主義の特性が輝く領域を紹介します。
IT・技術・研究
専門的な技術や知識が求められ、継続的なスキルアップを目指せる技術職・研究職は、完璧主義の人が評価されやすい領域です。特に、鋭い観察眼によって膨大なデータから法則性を導き出す分析や、わずかな記述ミスも許されないプログラミングを手がけるIT領域では、完璧主義者の活躍が目立ちます。業務効率化(RPA)においても、あらゆるエラーを想定し誤作動を未然に防ぐ姿勢が、投資対効果の最大化を実現するでしょう。
クリエイティブ
クリエイティブな領域では、完璧主義者の細部へのこだわりや基準の高さを活かせるでしょう。たとえば、グラフィックやWEBのデザインにおいては、ピクセル単位の配置やわずかな色彩の違いが完成度を左右するため、完璧主義の特性が大きな強みになります。一貫性のある完璧主義者は、企業のブランドイメージを保持したり、世界観を統一したりしなければならないサイトデザインにおいても、クライアントのニーズに応えられるでしょう。
金融・財務・法務
法改正や制度見直しが進む金融・法務分野は、常に専門知識の更新が求められるため、向上心の高い完璧主義の人が活躍しやすい領域です。数字や文言を一言一句間違えずに扱う必要があり、小さなミスが大きな損害につながる可能性もありますが、完璧主義の人は責任感をもって正確を期すでしょう。市場調査やリスク・マネジメントなど複雑なプロセスが求められる場面でも、徹底したチェックと精密な分析を行える可能性があります。
完璧主義がある人の趣味は、「自己満足」がキーポイント
完璧主義の人は、類まれな向上心によって趣味や生活もプロの領域に到達することがあります。たとえば、焙煎やドリップにこだわり抜いたコーヒー愛好家が脱サラして店を開業したり、家事の効率化を追求した人が家事術のインフルエンサーになったりするケースも珍しくありません。とは言え、それはあくまで結果論であり、評価制度から開放された自己満足の世界だからこそ「趣味」と言えるでしょう。「結果よりもプロセスを無心で楽しめる」「失敗も笑い飛ばせる」、そのような趣味に出会えたなら幸せです。趣味の時間を通じて「完璧でなくても、自分には価値がある」という認識を獲得できるでしょう。

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Q.なぜASDのある人は完璧主義になりやすいのですか?
A.さまざまな特性が関係していると考えられています。たとえば、物ごとを「0か100か」で捉えるハイコントラスト思考やこだわりの強さなどもその一つです。
Q.完璧を求めすぎるあまり仕事がはかどりません。対策法はありますか?
A.まずは、100点よりも70点を合格ラインに設定して、とにかく動き出してみること。そして、タスクに優先順位をつけて、成果につながりやすいタスクに集中することも有効です。
Q.完璧主義は治すべきですか?
A.いいえ。完璧主義には「基準の高さ」や「鋭い観察眼」などさまざまな長所があります。完璧主義との付き合い方を学んだり、長所を活かせる仕事を選んだりすることで、将来の可能性が広がります。